内容説明
伝統芸能に生きる父娘の葛藤と和解を描き、著者の文壇登場作となった「地唄」、ある男の正妻・愛人・実妹、三人の女が繰り広げる壮絶な同居生活と、等しく忍び寄る老いを見据えた「三婆」、田舎の静かな尼寺に若い男女が滞在したことで起こる波風を温かい筆致で描く「美っつい庵主さん」等五作品を収録。無類の劇的構成力を発揮する著者が、小説の面白さを余すところなく示す精選作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
そうたそ
9
★★★☆☆ 著者の作品は長編の方が好きだが、短編を収めた本作でももちろんその才能を感じることはできる。著者の名を広めることとなった初期の作「地唄」は、伝統芸能に生きる父娘の葛藤から和解までを描いた傑作。筋立てはシンプルだが、魅せ方がうまい。二十数歳でこれだけの作品を書いてしまうあたりに著者の凄さを感じる。芥川賞も直木賞も候補止まりだった著者は文壇では好まれる存在ではなかったようだが、「地唄」にかかわらず他の作品の出来の良さからしても、過小評価されていたように思えてならない。2024/11/01
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4
解説の掲載されたインタビューに著者が《「男が書きもらしているところを、女が書き改めなくてはいけないという意識」を常に持って作家活動をしてきた》とあり、本当に言葉足らずで申し訳ないけれど、ものすごい作家がいたんだとつくづく実感する。娘と父のわかりやすいけれど複雑で絶妙なやり取りや、少々の物悲しさと小気味好い毒気のある女性たちの日常など、硬筆だけど魅力的な文章にうっとりさせられる。『美っつい、庵主さん』『三婆』がお気に入り。講談社文芸文庫を初購入。2021/08/28
rinrinkimkim
3
地唄の最初に梶川流と出てきた。と言うことは連舞・乱舞は本書のスピンオフ的存在だったのか?また地唄が断弦に膨れてゆくわけで興味深かった。三婆:最後のほうで「醜さが押さえても押さえても、体のあちこちからはみ出してくる」と言う表現がすごい。今でいう「ダダ漏れ」を有吉さんはこう表現してる。どれほど醜いか、抑えるではなく押さえるのですよ。そしてはみ出すのです。こういう言い回しがたまらなく魅力的で有吉作品から離れられないのです。次は針女2017/04/03
AR読書記録
3
ものすごくうまい.ものすごく読ませる.どこの一文をとっても隙がないと思う.解説もしっかり読むべき.2011/01/10
tamako
2
やっと読み終わった! 暑すぎて読書が捗らないことこの上ない。 この本は有吉佐和子の初期短編集で、解説も非常に丁寧な有吉佐和子論になっている。私は中学生の時から有吉佐和子を読んでいるが、長編ばかりだったので、切れの良い短編は非常に新鮮だった。フェミニズムとか社会問題の提起とかでエキセントリックなイメージもある作家だけど、この本からは、むしろ先入観無しの素直な感情が見える。三婆にしても、家長の早過ぎた死と復興の荒波と関係者の言動に、ただただ驚く気持ちが可笑しくて切ない。2019/08/10