内容説明
伝統芸能に生きる父娘の葛藤と和解を描き、著者の文壇登場作となった「地唄」、ある男の正妻・愛人・実妹、三人の女が繰り広げる壮絶な同居生活と、等しく忍び寄る老いを見据えた「三婆」、田舎の静かな尼寺に若い男女が滞在したことで起こる波風を温かい筆致で描く「美っつい庵主さん」等五作品を収録。無類の劇的構成力を発揮する著者が、小説の面白さを余すところなく示す精選作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
23
読み始めてから再読と気づいた「地唄」はやはり切ない余韻を残す。盲目の琴の師匠と、外国人との婚約ゆえに勘当された彼の娘の再会で、琴の調律のわずかな乱れを彼女が直した瞬間の父の表情の変化、音の高さに色を割り当てて着物の色を父に伝える娘。尼僧院やカトリック教会などの神聖な祈りの場における意外にどろくさい人間関係、そこに闖入してくる俗人が空気をかき乱す「美っつい庵主さん」「江口の里」も引き込まれる。正妻・小姑・妾が主人の死後顔を付き合わせて暮らすはめになる悲喜劇「三婆」も、くすりと笑わせて、やがてしんみりさせる。2025/09/07
そうたそ
9
★★★☆☆ 著者の作品は長編の方が好きだが、短編を収めた本作でももちろんその才能を感じることはできる。著者の名を広めることとなった初期の作「地唄」は、伝統芸能に生きる父娘の葛藤から和解までを描いた傑作。筋立てはシンプルだが、魅せ方がうまい。二十数歳でこれだけの作品を書いてしまうあたりに著者の凄さを感じる。芥川賞も直木賞も候補止まりだった著者は文壇では好まれる存在ではなかったようだが、「地唄」にかかわらず他の作品の出来の良さからしても、過小評価されていたように思えてならない。2024/11/01
たつや
5
「地唄」が読みたく、図書館で借りた。芥川賞の候補になったが、受賞は逃したそうだ。他の候補作が分からないが、単体では、充分に芥川賞受賞のレベルに思える程、良かった。複雑な設定だが、有吉佐和子らしく、複雑な心理描写が入り混じり、読後に余韻が残った。2025/09/12
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4
解説の掲載されたインタビューに著者が《「男が書きもらしているところを、女が書き改めなくてはいけないという意識」を常に持って作家活動をしてきた》とあり、本当に言葉足らずで申し訳ないけれど、ものすごい作家がいたんだとつくづく実感する。娘と父のわかりやすいけれど複雑で絶妙なやり取りや、少々の物悲しさと小気味好い毒気のある女性たちの日常など、硬筆だけど魅力的な文章にうっとりさせられる。『美っつい、庵主さん』『三婆』がお気に入り。講談社文芸文庫を初購入。2021/08/28
rinrinkimkim
3
地唄の最初に梶川流と出てきた。と言うことは連舞・乱舞は本書のスピンオフ的存在だったのか?また地唄が断弦に膨れてゆくわけで興味深かった。三婆:最後のほうで「醜さが押さえても押さえても、体のあちこちからはみ出してくる」と言う表現がすごい。今でいう「ダダ漏れ」を有吉さんはこう表現してる。どれほど醜いか、抑えるではなく押さえるのですよ。そしてはみ出すのです。こういう言い回しがたまらなく魅力的で有吉作品から離れられないのです。次は針女2017/04/03
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