内容説明
主人公田沢衿子は二十代後半の独身女性、母親の言動に振りまわされ苦痛を感じているが断ち切ることができない。或る日、彼女の十五階だてのアパートで、祖母を殺した少年が投身自殺した。強者に支配される少年と自分とを重ね合せ、彼女は母親から逃れるため行動をおこす。“イエスの方舟”を背景にして弱者の生き方を追究、魂の漂流をいきいきと描いた著者の代表長篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nashi
3
努力ではどうにもできない理不尽から、逃れる。それは逃げではないし、逃れた者を助ける場があってほしいと思う。しかしあくまで一時避難であって、依存するのではなく、いつか自立できるのがいいとも思う。だから志奈子の「幕舎は自分の中に立っているべき」という言葉に共感した。志奈子は過去を消して良い仲間に出会えたけれど、現実はそう甘くないはず。でも何か少し、心を自由にしてくれる物語だった。2012/10/26
かっぱ
2
この本が刊行されたのは、作者68歳の時。ならば納得。これを30代ぐらいで書いていたら凄すぎる。「イエスの箱舟」の事件がモチーフとなっているのだが、既存の宗教だけでは救われない人達が、最後に逃げる場所としての「アブラハムの幕舎」。初めは、公園にアングラ劇団のテントのようなものを建てて、人の世で傷つき、迷った少数の人達を呼び寄せてキリストの話をしていたのが、大きな団体となるにつれ、社会から糾弾を浴びるようになる。主人公は自分のことを、負の人生を歩み続けてきた化けている女、昆虫、白狐、柳の精と呼び、2012/05/16
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