内容説明
椎葉幹央は大学院に籍を置く学生、五歳の時母をなくし十六歳の時父と死別、以来一人で生きている。学位論文を書くため山の宿に籠るが、そこで奇妙な女性と出遇う。彼女は彼のアパートについて来、住みついてしまう。他を拒否する「個」が互いを侵蝕することなく「孤」のまま如何に関わるかを鋭利にみずみずしく捉え、生の深淵に迫る力作長篇。泉鏡花賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
花音
4
壁をつくらざるを得ない主人公の在り方と、中盤以降少し露わになる感情の動きがまるで一つの実験を見ているかのよう。女性を好きだったと振り返る姿を何と形容して良いのか、一概に成長と呼ぶのは少し粗く思えて。ただ一言言うならば、私はこの主人公が好きでした。内にいろんなものが溢れ返っているのに、外部に出ていくものは殆どないシングル・セル。何かが足りないような、欠落しているような違和感も嫌いじゃないです。2014/07/30
YO)))
3
修士課程の修了を控えた天涯孤独の学生と,彼が山の宿で出会った素性の知れない女子大生.二個の孤独な細胞(=セル)の,その細胞壁を越えて浸透したものは有り得たか.何となく,古井由吉をモダンにして薄めた感じかな,と思いながら読んだが,今ひとつ乗り切れず.2014/07/29
哀川空
3
ちょこちょこ読んで暫く経ってしまったから頭から読み直したら一気に読んでしまった。増田みず子の長編小説。バラバラにした細胞と天涯孤独の主人公。つきつ離れつする不安定な関係。その隙間にぐっと引き込まれてしまう。得て、失って、再び得ていくのが、まるで孤細胞の定義のようで、でも得たところで互いが融和することはなく孤独同士。あらすじが秀逸ですね。読み終わったあとにあらすじをふと読むと、納得する。好きだなあ。言葉の間にあるものが好き。2012/11/29
大福
2
人間の形はこんなに脆弱なのかと思い知らされる。相手の一言で自分の壁は簡単に壊される。家族という防護壁がなければ、人は孤細胞になる。家族から飛び出して孤細胞になりたいのが稜子か。孤独は個を吸着するように求める。そこで群れることをを拒否すれば、大きな傷を残して孤細胞に戻るしかない。しかし、物語中では「彼はその事実に慣れるだけである」とされる。主人公はいつか自分なりの家族を持つようにも思える。一般的な意味での永続的な(永遠を誓うような)家族ではなく、生きている時間の一部分を共有するような家族かもしれない。2018/08/21
@第2版
2
絶版にするのが惜しい程、控えめに言って面白かった。本作は前半と後半とに大きく分断している印象があった。前半は山宿を舞台とし、椎葉の人物像を回想を交えながら描き出されてい、後半は帰京後の日常生活を舞台にし、彼と稜子との奇妙な関係をその終焉に至るまで描き出されている。私は椎葉の生き方に妙に共鳴し、静謐で醒めた筆致により変に感傷的にならないところもまた私に迫るものをもたらした。人によっては退屈な小説だと思われるが、少なくとも大学生としての今の私にとっては個=孤としての在り方に強く共振するところがあり切実だった。2017/08/03
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