内容説明
1899年ロシアの名門貴族として生まれ、米国に亡命後『ロリータ』で世界的なセンセーションを巻き起こしたナボコフが初めて英語で書いた前衛的小説。早世した小説家で腹違いの兄セバスチャンの伝記を書くために、文学的探偵よろしく生前の兄を知る人々を尋ね歩くうちに、次々と意外な事実が明らかになる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
chanvesa
39
デーモンが乗り移ったかのようでありながら、緻密なラストに、10年前に感激して読んだことを思い出した。久しぶりに読んで、ナボコフの知に遊ぶ一面を、あの熱いラストをもってしても強く感じた。260頁の「今となってはあまりに遅すぎるのだが、《人生》という本屋がもう閉店する時間になって、初めて、彼は前から手に入れたいと思っていたある本を購入しなかったことを後悔した」。その本は雑多などうでもいいようなことが列記され、こう続く。「重要なのは部分だけではなく、部分の組み合わせにあるのだ」。これは人生そのものな気がする。2014/06/28
おおた
30
ナボコフが愛した蝶が幼虫から蛹・成虫と変態していくように、自身もまたロシア→ドイツ→アメリカと住む場所を変えて、書くための言語も変えた。しかし変態しても同一の存在であることには変わりない。本作もまた同一の存在を探し求めていく。ただ、プルーストを読んでいるとこういうメタな話についていけないところがあって、もっとSとVの精神的な結びつきを読みたいと思ってしまう。それがめいっぱい書かれてこの分量というのは構造上しかたないとは分かっているのだけど……。あと、そろそろ新訳があってもよさそうです。2020/05/24
Tonex
30
若くして死んだ作家セバスチャン・ナイトの伝記を書くため、彼の弟が生前の兄を知る人たちを訪ねて回る話。過去と現在、虚構と現実が入り乱れて、読みにくい。▼2回読んだ。1回目はかなり苦戦した。読み始めるとすぐに眠くなる。何日もかけて読んだが全然面白くない。普通ならこんな退屈な本は絶対に再読しないが、ナボコフなので再読する。▼2回目。急に面白くなった。兄の秘密に迫る人探しミステリー。凝った文体と巧みな伏線。さりげないユーモアとアイロニーたっぷりの比喩。なぜ1回目につまらないと感じたのか不思議なくらい面白い。2016/03/07
弟子迷人
30
別の本を探していて発見。あやうく2冊買うところだぜ。ということはもちろん読んだことすら、内容も覚えていないということで、あぁ若読み、恐るべし……。面白かったとみえて、やたら付箋(というか紙片)がはさんであるのだけど、もはや意味不明。一箇所、面白いセリフを発見しました。/……「あなたは芸術家ですね」とぼくは言った――何かを言うために。/……まぁこれで再度、初読の楽しみを味わえるというもの、か。自分の記憶力のなさに、今朝だけは感謝したのでありました。とほほ。>< でもこれって、もしやセバスチャン・ナイト的?!2014/10/16
ネムル
22
読めども読めども焦点が徐々にぼやけ続ける、架空作家セバスチャン・ナイトのフィクショナルな伝記小説。腹違いの弟が信頼ならない視点ぎりぎりのリスペクトから伝記を執筆するなかで、合わせ鏡を覗きこむようにして双子が同一化する。被害者が実は生きていたというミステリ・パロディの作中作(梗概のみだが)の『プリズムの刃先』のおバカさも魅力的だが、セバスチャンが蘇るというオチとの照応関係が実に見事。正直一読で汲み取れるものではないが、あるいはナボコフの完璧な小説と言い得る傑作なのかもしらん。2009/08/25