内容説明
デンシャーを慕ってイギリスに渡った大富豪のミリーは、ラウダー夫人の手引きで社交界に華々しくデビューする。「人よりはやく生きる」ために、病身のミリーはヴェニスの由緒ある宮殿を借り切って住みはじめる。ロンドンからデンシャーと恋人のケイト、ラウダー夫人たちがやってきて、物語はミリーの死とともに結末をむかえる。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
扉のこちら側
74
2016年81冊め。【111-2/G1000】ミリーの不治の病が何なのか(結核ではなかった)、またその心中も「鳩」を演じ切っていることから明確には語られない。不治の病を自覚した者は、周囲の人々のある種の期待からは逃れられないのか。そしてミリーの遺産がケイトとの手切れ金となってしまうとは。上巻冒頭からは想像できなかったケイトの汚れ役っぷりと、デンシャーの情けない姿。欺きあい背を向けるしかなくなった彼らの明日には何があるというのだ。2016/02/07
ペグ
62
10月14日青空が広がる土曜の昼前に読了。難解な言葉が一切使われていないにもかかわらず、なんと難解な小説なんだろう〜プロットはシンプルなのに殆ど心の中を描いているから。自尊心と劣等感。正と邪。欲望に対する執着。終着点を決めるのは全てその当人しかいないのだが〜。ミリーの儚さ、ケイトのしたたかさ。その間で立ちすくむデンシャー。小説ではミリーの(鳩の)翼が彼等を覆い尽くすと描かれているけれど、わたしは大空高く羽ばたいたと解釈したい。とてもとても読み応えのある一冊だった‼︎2017/10/14
キムチ
20
何とか霧を脱出し、ケイト・ミリー・デンジャーの後ろ姿と立ち去る足音を聴くことが伝わった・・ような読後。ストーリーは頁をめくり返し掴めるのだが、ジェイムズの心理的緻密な表現は高度過ぎて、朦朧とする・・のに読んでしまう。19Cから20Cへ連なるせせらぎ、米から欧へ注いで行く薫りのさざめきがある。美貌を誇りつつ、貧しいことを忌み、結婚すら妥協の条件とは受け入れない、生きる為にはそれを悪と覚知し続けるケイト。富があり、気高く純粋な魂を持ちつつ、生きる時間が砂時計であるミリー。デンジャーの軟弱さに気持ちがざらつく。2014/01/29
きゃれら
14
20年以上ぶりの再読。物語の大枠は裏表紙の粗筋にもあってわかっていたが、結末は覚えていなかった。物語を進行させる事実の記述は最低限で、徹底した心理描写。読者を置いていく会話の言葉の省略は当事者同士はわかり合えるという意味ではリアル。その上登場人物の決断、行動も理解が難しい。本当に読みにくかったが、こっちも力がついているのか時間をかけて読んだ。きっと前回より深く読めているので、この後も色々考えることになるのだろう。この方向性の作品としては極致まで追求されていると言っていいのだろうか。2022/07/29
フリウリ
10
要素としては、人間のいやらしい部分や新奇な事象もそこそこ取り入れられていて、おもしろくないはずはないと思うのですが、19世紀的な、エピソードや人間関係をありったけ詰め込んだような小説のありようからみると、技巧を積み重ねて小さな事柄を長々と引き延ばしている感は否めません。形式での際立った冒険のない、行儀のよい小説と思いました。以前はヘンリー・ジェームズは、文学部英文科の購読の定番だったそうです。52024/06/15
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