内容説明
突然舞い込んだ「メーデー事件第二審の証人として法廷に出て頂きたくお願い申し上げる次第であります」との手紙。二十年前の己れの遠い過去の甦りに、怯えを隠せぬ男の、同時に捲き込まれる現勤務先での一就業規則違反事件。昭和二十七年、高揚するメーデーのデモ隊に加わって、皇居前広場に乱入し逮捕された者、逃げ惑った学生らのその後の時間の重みと心の傷の襞を鮮烈に追う長篇力作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マサキ
8
メーデー事件を軸に進むが、政治的な話ではない。会社と労組の問題がもう一つの並行した軸だけど、これも会社組織の話でもない。女性関係も森子のこと、花井悦子と薬師寺悦子のこと、そして仙波美緒子と舘野美緒子が鮮烈だが、恋愛小説でもない。変わらぬ信念を抱えながら大人としての20年など生きられない、そんな一見不誠実かもしれない杉人の生き方をあぶり出す。政治も会社も人間関係も性も、全てが重要な要素となって杉人を形作っている。嘘のない、誠実な小説。誠実とは自分をしっかりと見つめることで行動じゃない。2020/08/31
miyamo
0
2004.8.14
