出版社内容情報
【内容紹介】
たんぽぽの花が咲いた、のどかな生田川沿いの町の病院。眼前の身体が突然見えなくなる奇病に冒された娘稲子を入院させて帰る母と、娘の恋人久野の口から語られたのどかさとは対極的な狂気と不思議な愛のかたち。『眠れる美女』『片腕』の後に執筆、その死で中断された川端康成最後の連載小説。文庫版初収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
109
未完の小説。人体欠視症の稲子を生田川沿いの生田病院に入院させ、恋人の久野と稲子の母との会話が中心のストーリー。稲子の病のきっかけとなった父親の馬での落下の死が繰り返し語られる。これからたんぽぽのような少年と、父親を敗戦の際に救った少女とのプロットを考えていたらしいが、著者自身「私の小説はいつどこで終わってもいいのです」と常々語っていたように稲子と久野とのやり取りで終わるのに違和感は感じない。視覚の欠損と幻視、髪を触る触覚と鐘の音が響く聴覚、登場人物の会話を俯瞰する第三者の目、<仏界易入 魔界難入>の言葉。2023/06/18
青蓮
90
愛する者の姿が見えなくなる人体欠視症に冒された稲子。物語は娘の稲子を精神病院へ入院させた母親と稲子の恋人の久野の語りで展開される。心を病んでしまった人々が入院している病院の存在と長閑に咲くたんぽぽとの対比がこの作品を象徴しているように思う。心狂うことの恐怖感がありながら奇病の出現、現象は美しい表現で書かれ、人体欠視症という架空の病気自体が悲劇的かつロマンティックな色を帯びている。本作の仄暗いロマンティシズム、エロスは「眠れる美女」「片腕」と同じ匂いがする。未完なのでどういう結末が用意されていたのか気になる2019/02/22
佐島楓
68
<大学図書館本>これが川端の絶筆という意識もあってか、恐ろしい文章としか読めなかった。実際、母と久野の会話は病的である。二人とも目指す方向が見えないのだ。禁忌の匂いをはらむエロティックさを内包しながら、この物語はどういう着地点を迎える予定だったのだろう。もしかしたら川端自身にもはっきりとしたビジョンはなかったのかもしれない。2019/03/01
優希
64
奇妙な物語という印象を受けました。「人体欠視病」の稲子の物語でありながら、婚約者と稲子の母の会話で物語は進みます。しかし、その会話も噛み合っておらず、不安を感じました。川端の未完の作品ですが、書き上げていたらどのような物語になっていたのでしょうね。2021/03/15
クラムボン
30
小川洋子の共著「川端康成の話をしようじゃないか」「注文の多い注文書」双方で取り上げられた最後の長編…残念ながら未完に終わる。《人体欠視症》という奇病で精神病院に入院する稲子。付き添いで来たのは母親と恋人の久野。病院からの帰り道と宿での半日の物語は、お互いの息もつかせぬ濃密な対話と回想で語られる。共にかなり理屈っぽく、意見の応酬、相手を罵倒するのも辞さない。この繰り返し語られる会話が見どころだが、物語は一向に進展する気配が無い。細部を積み上げたままで終わるのか、それとも…行きつく先があるとは思えないのだが。2024/01/27
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- 和書
- 土地狂騒曲 角川文庫