内容説明
北海道の広大な自然を舞台に滅びゆく民族の苦悩と解放を主題に展開する一大ロマン。アイヌの風俗を画く画家佐伯雪子、アイヌ統一委員会会長農学者池博士、その弟子風森一太郎、キリスト者の姉ミツ、カバフト軒マダム鶴子など多彩な登場人物を配し、委員会と反対派の抗争の中で混沌とした人々の生々しい美醜を、周密な取材と透徹した視点で鮮烈に描く長篇大作。
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京都と医療と人権の本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハチアカデミー
17
武田泰淳は『富士』だけではないことを思い知らされた傑作。アイヌとシャモの軋轢を描き、全編に亘って葛藤とチャランケ(論争)が繰り広げられる。アイヌの研究者である池先生、アイヌをモチーフとした絵を描く芸術家雪子のシャモ二人と、池の弟子の一太郎、池の元妻である鶴子の四人が、それぞれの立場から日本化されていくアイヌ民族の問題に巻き込まれる。単なる社会的な問題としてではなく、それぞれに色恋関係を持たせることでより複雑で真に迫った問題として描くことに成功している。安易な解決策ではなく複雑さを保ったままのラストも良い。2015/04/14
MJ
0
取材中に見聞した、それぞれ独立していたであろうエピソードを、物語として縫い合わせているため、作品として一貫していない感じがする。ただ、手掴み鷲掴みのツギハギともみえる展開のおかげで、当時のアイヌの置かれた状況が生々しいまま物語のなかに保存されている。もっとシビアにエピソードが取捨選択され、噛み砕かれ、起承転結の中に違和感なく同化していたら、語られる内容の確からしさという手応えを、これほど読者に与えることはなかったと思われる。失われつつある文化を、回顧して復元させるではなく、失われるがままに表現してある。2018/11/16