出版社内容情報
【内容紹介】
6歳で実母と生き別れ、16歳で女子大に仮入学する旅立ちまでの精神の遍歴をたどった自伝的長篇。終生志賀直哉を文学の師と仰ぎ精進した女流作家が、3代にわたる一族と、自己の人間形成を冷静に見据える。他に短篇「教母」「イワーノワさん」等6作を収録し、網野菊の感銘深い文学世界の精髄を凝縮する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
AR読書記録
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どう読むか、ちょっと落ち着かせどころがむつかしくはある。とても複雑な家庭環境のなか、自分の道を見つけていく少女の物語、と読むには、現実を見つめる視線があまりにも容赦なく冷めている。夢や希望、あるいはよくも悪くも強い感情みたいなものが含まれていない。“一つの時代史”として非常に興味深いのは確かだが、著者がそこを一番書きたかったんだとは思えない。人間の生々しい部分に特に潔癖でもあり、よい意味での“いい加減さ”を持たない著者に寄り添うのはちょと疲れる。やっぱり似た者同士というところがあるんだろナ...2014/07/09
無意味への献身
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網野菊の生い立ちは一度聞いたら忘れられるものではない。「ゆれる葦」は、彼女の16歳までの軌跡を丁寧に綴る。物質的には不足していなかっただろうが、何という人間関係の複雑さか。だが彼女はその境遇を嘆く訳でもなく、家族それぞれの強さや弱さ、人には言えなかった事情を冷静に汲み取るのだ。網野菊の作品世界は「狭い」と切り捨てられがちだが、小説の価値はそういうところにあるのではないと気づかされる。誰しもが持っている「物語」を掬い上げる営みが文学だと、網野菊の小説は教えてくれる気がする。2022/08/16