内容説明
起きてしまった知人の配偶者との“関係”の事実を男は謝罪し弁明する程に、ますます窮地に陥ってゆく。露程する主人公の心の“やましさ”を作家の眼が凝視する。救いを願う個我の微妙な感情と心理を描いた意欲的長篇。漱石、直哉等と日本の近代小説が探求し続けてきた人間の“倫理とエゴ”の重く切実な主題を共有する、『幕が下りてから』に続く著者中期の代表作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しゅん
10
何故か起こしてしまった先輩作家の妻との姦通。主人公格の男は何も説明できないし、原因と結果のつながりを判別できない。その事実の露呈は恐れ、その責めを自分が負う流れは理解し、先輩作家の怒りも道理に思う。しかしながら、避けよう避けようと思いつつ気づいたら近寄ってしまう、特段魅力を覚えていたとは思えない女性との邂逅に、なにができるというのか。不可抗力の度し難さに戸惑い続けるさまがひたすらに続いていく。このどうしようもない彷徨に、他人の無理解の徹底に、だんだんグッときてしまう自分がいた。身に覚えのある戸惑いだった。2022/09/14