内容説明
ミロのヴィーナスがあのように魅惑的なのは、彼女が、その両腕を故郷であるギリシアの海か陸のどこか、いわば生ぐさい秘密の場所にうまく忘れてきたからだ。絵画・映像・音楽その他のあらゆる“手”の変幻を捉え、美や真実の思いがけない秘密の瞬間を析出した、清岡卓行の鮮やかな詩的想像力。エッセイ文学の名品。
目次
失われた両腕―ミロのヴィーナス
思惟の指―半跏思惟像(広隆寺)に
映像と心像―アンリ・コルピ『かくも長き不在』
指の先の角砂糖―萩原朔太郎「この手に限るよ」
勝利の羞恥と儚さ―東京オリンピックから
演奏の手
決死の手の蘇生―島尾敏雄「出発は遂に訪れず」
女の手の表情
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
還暦院erk
5
図書館本。冒頭エッセイ『失われた両腕』は教科書で習ったことがあるような。思わず分析読みしたり難語を解釈したりしちゃったよトホホ。さて、本書は「手」の表現を核として、文学音楽映画絵画彫刻さらにはスポーツ選手の姿勢まで題材にしている。多彩な蘊蓄いっぱい。ただ、特に絵画はどんなに精妙に文章表現されていても、知らない絵だとどうしてもイメージできなくて(またトホホ)、たっくさん画像検索してしまった(映画はお手上げ…諦めました…)。調べ読みならぬ手探り読み。本書の復刊時には、もっと図版を!2020/09/21
shimomo
5
著者初のエッセイとのことですが、手に対するこだわりがすごい。特に巻頭の「失われた両腕 ミロのヴィーナス」では、このヴィーナスは自分の美しさのために両腕を無意識に隠してきたのだという。よりよく国境を渡って行くために、よりよく時代を超えて行くために。ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」における「羞じらいの魅力」の文章も素晴らしい。ぜひ文庫でもよいので復刊してほしい。2015/03/22
ほちる
3
何が素晴らしいって、評論のくせに文章が美しすぎる!なんだこれは…思わずため息が出た。全ての文章に美しさを感じた。驚いた。是非是非人に読んでもらいたい本第一位だ。2016/10/22