内容説明
金沢の旧制高校から東京帝大に入学した片口安吉の〈新人会〉での活動を核に、豊潤な感性で描く精神の軌跡。時代の終焉を告げる天皇の死。合同印刷ストライキ。激動の予感を孕みながら展かれてゆくプロレタリア運動。流されるままに流れる〈心〉の襞の光と影。『梨の花』『歌のわかれ』に続く自伝的長篇小説。毎日出版文化賞受賞。
感想・レビュー
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Shue*
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青年・安吉の成長譚。緊密な文体で、時間軸もあっちにとびこっちにとび、知らぬ間にもとに戻ってきたりする。だから、読み進めるには慎重を要する。が、やめられない。偉そうにレーニンを語る友人との間に感じる劣等意識や立場の齟齬。何度も留年した挙句、単位ほしさに教授の家にすがり付いたり、試験の身代わりを依頼したり。なーんだ、やってることも悩むことも、皆一緒じゃねーか。ユーモアと迫る緊迫とが、流石の筆致。2013/03/15
doradorapoteti
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面白い!!
けいこう
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ドイツ語の通訳をする場面が良かった。2021/04/12
Hiro
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高名な著者を初めて読んだ。あるいは教科書で何かのさわりは読んだかも。そして読んでびっくり、実に面白い。まず文章が独特で個性的だ。俗語も擬態語もかまわず破格な表現で使いこなし、女性の美しさも庶民の卑俗な酒盛り風景も同時に自由に書き込んでいく。融通無碍で味のある文章は読み慣れてくると心地よくて止められなくなる。描かれているのは戦前の治安維持法下での、大学生の共産主義運動なのだが、登場する青年たちの、息遣いの聞こえてきそうな、活き活きとした描写や、そこを精一杯生き抜く主人公の必死な姿はとてもみずみずしい。2020/09/24