内容説明
海軍予備学生に志願し従軍した牧野の青春は敗戦とともに打ち砕かれた。心は萎えていた―。身内に暗い苛立ちを棲みつかせ、世間に背を向け頑なに生きる男。短気で身勝手で、壮烈な暴力をふるう夫に戸惑い反撥しながらも、つき従う妻。典型的な夫婦像を描く作品の底に、亡き戦友への鎮魂の情を潜め、根源的な哀しみを鋭く突きつける傑作長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
めんま
18
裏表紙の紹介文には「典型的な夫婦像を描く作品の底に、亡き戦友への鎮魂の情を潜め、根元的な哀しみを鋭く突きつける」とまったくの嘘が書かれている。正しくは、甘やかされて育った癇癪持ちのおじさんが、妻に対して我が儘と頑固を押し付けるDVを淡々と描いた作品。面白いと言えば面白い。2021/09/05
きいち
17
主人公は、妻に自分の理想像を押し付け、それから外れると感じると逆上して暴力をふるう夫。だが彼は一方で、死を覚悟して赴いた戦地から帰ってきて「これだけは書きたい」という小説によって作家となった純粋な男でもある。冒頭いきなり、その理不尽な逆上、大晦日子どもの目の前で妻に暴力をふるうシーンからスタートし、そのまま男の視点で進むので、今読むと正直くらくらしてくる(発表は66年)のだが、あまりに自己正当化して語られるおかげで、戯画だとしか思えない。人に自分のイメージを押し付けるって結局こんなに暴力的ってことだよな。2013/11/13
Yuki Ban
2
海軍帰りの主人公は強情で素直だ。主張を真っ直ぐ相手に伝えてしまう。自分でもどうかと時に迷いながら。言ってしまって後悔もする。例えば、女は男に従うべきという考えを持っているので、妻が自我を持って反論してくると長く説教をする。妻の切り返しは短くなっていき、終いには押し黙ってしまう。夫は悔やむがまた癇癪を起こして妻は耐え、生活する中、二人は老いて、夫は丸くなり、妻は夫に適応しだし、子供が増えてくる。でも主人公の性質は変わらない。張っていた気が唯一緩んだ、戦没者を想い涙するシーンで、僕はこの主人公が好きになった。2018/04/28
Gakio
1
一気に読んだ。良書だ。文章の質が想像以上に高いと思う。 自分の両親とか祖父母と重ね合わせる。牧野の亭主関白も、筆に起こせば客観的に捉えられている。 かやちゃんは偉いなぁ。でも牧野も海軍に入ってたんだからなぁ。2019/11/26
アキヤマ
0
久々に再読。2014/11/18