内容説明
如何なれば膝ありてわれを接しや―。長崎での原爆被爆の切実な体験を、叫ばず歌わず、強く抑制された内奥の祈りとして語り、痛切な衝撃と深甚な感銘をもたらす林京子の代表的作品。群像新人賞・芥川賞受賞の『祭りの場』、「空缶」を冒頭に置く連作『ギヤマンビードロ』を併録。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
229
第73回(1975年上半期)芥川賞受賞作。タイトルからは想像がつかないが、1945年8月9日の長崎での被爆体験に基づいた小説である。著者は学徒動員先の三菱兵器工場(爆心地近く)で被爆。小説は当日から同年の10月までを描く。表現のあり方は小説というよりも、被爆者の体験記そのものである。そこに時折、長崎医大爆弾救護報告が淡々と挿入されるという形式をとる。本書によれば、長崎の原爆による死者は73889人。投下したB29は「ボックスカー」だったそうだ。原爆の無差別性が淡々と告発される。終戦までわずか6日間である。2015/07/04
遥かなる想い
181
第73回(1975年)芥川賞。 長崎原爆の日を題材にした作品である。 平穏に暮らしていた人々が、家族が 一瞬のうちに、訳のわからないうちに 次々と死んでいく様を 感情を抑えた 筆致で、淡々と描く… 戦後30年 経って 当時14歳の少女だった 被爆者が 綴った実体験の作品である。 2017/10/01
kaizen@名古屋de朝活読書会
124
【芥川賞】「祭りの場」著者の被爆経験を知った。広島の物語は多い。長崎物ははじめて。長崎が小倉の次の標的であり、当日の天候により場所が決まったことを知った。複数の目標を設定し、戦略を立て、優先順位に従って選択していくという、日本の弱いところの裏返しを如実に提示することにより、考えるべきことの深さを知る。現場で何が起こり、何を考え、どうしたのか。手に取るように分かった。長崎での被害を知り、勉強不足を恥じる。2014/02/07
olive
44
毎年の八月、ほんの瞬きの間立ち返る一冊。「祭り場」を含め12編の短編集を通し、原爆の脅威と、死んだ者、生き残った者のなぜが色濃く書かれており、私は「二人の墓標」が印象深い。そして、傷を背負って生きる人の声が遠くではなく耳元で聞こえてくる作品だとも思いました。2021/08/15
ちさと
30
純文学というよりもノンフィクション作品じゃないかと思う、芥川賞受賞作「祭りの場」。14歳の時に長崎で被爆した体験の記録で、44歳になった著者が後日入手した情報や感想を挿入しながら話が進んでいく。少し感情移入しづらい部分がありました。「総てをかなぐり捨てて個人であった人間と、あくまで社会人であった人達と、戦争は人間ドラマの優れた演出家である」等、ちょっとした皮肉っぽいコメントが随所にあって、著者の原爆への畏怖とか生き残った戸惑いみたいなものを感じました。2019/01/21