出版社内容情報
幸田 文[コウダ アヤ]
著・文・その他
内容説明
山の崩れの愁いと淋しさ、川の荒れの哀しさは捨てようとして捨てられず、いとおしくさえ思いはじめて…老いて一つの種の芽吹いたままに、訊ね歩いた“崩れ”。桜島、有珠山、常願寺川…瑞々しい感性が捉えた荒廃の山河は切なく胸に迫る。自然の崩壊に己の老いを重ね、生あるものの哀しみを見つめた名編。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
80
本文には筆者が72歳であり52キロであることが何度か出てくる。昭和51年からの連載(『婦人之友』にて)。当時の72歳というと、いまなら80歳は優に超えている。その年で思い立って自然の剥き出しの惨状に立ち会おうと思い立った。厳しい場所が多く、時には関係者に背負ってもらってまでも崩れの現場に近付こうとする。もう、なりふり構わず。その思いは何処から来るのか。身辺雑記の叙述を得意とする作家が何故。昭和の作家で山の厳しさ美しさを愛でた人物は散見される。が、崩落現場へ自ら出向き対面した作家は少ないのではないか。2020/04/11
Gotoran
47
著者72才の時の作品。安倍川の崖の崩落跡を見た事をキッカケに、「崩れ」に取り憑かれたような著者ならではの感性で自然への脅威・畏敬の念と、それに纏わる人間関係を練達した文章で綴っていく。何でも見てやろうという好奇心旺盛さ、自然という人間の力ではどうにもならない巨大な力に対峙していく姿勢、そして感性と表現描写力…素晴らしい。興味深く読んだ。 2024/01/05
Shoji
39
山崩れや山ヌケ、噴火や土石流、河川氾濫といった大自然のエネルギーによる崩壊に着目して、著者が静かに自然の摂理を語ります。まるで自然の摂理に老い行く著者自身を投影してるような感じです。静かな物語ですが、秘めたる情熱を感じさせました。2021/12/16
ホークス
38
繊細で文学的な感性が、自然科学的な、極めて男の子的な現象に魅せられた不思議なエッセイ。相手は日本三大崩れに数えられる巨大な山崩れ現場。当時著者は72才だが、少年の様に現象の圧倒的パワーと視覚的ショックに驚き翻弄され、追憶も含めた「崩れ」巡礼に入っていく。実は土砂崩れを体験もし、興味を持っていたと分かる。勝手な解釈かもしれないが、本書の凄さは、老年からでも、いや老年になったお陰で、新たな感性や可能性を獲得できると思える所にある。物理的な驚異を語る著者が、とにかくチャーミングに感じられた。2016/12/23
アナクマ
32
山体崩壊などの〈崩れ〉に惹かれた72歳の行脚。1-4章_まずは大谷&大沢崩れ。なにも知らず、赴くままの取材が周囲にかける迷惑は自覚しつつ「心の中にはもの種がぎっしり」で、それがどう発芽するのかも分からない。しかし実物に出会ってしまうと「かつて無い、ものの思いかたをするのは、どうしたことかといぶかる」。力量不足と知りながら「書けることを書くほかない。ほかへ振替える気はない」という、老年の〈好奇心への向かい方〉が興味深い。崩れの何に惹かれてどう感じたのか、流暢な文章でつづられる自省と感性の紀行文。→2025/07/10
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