内容説明
神も仏も、己れの他に何も信じぬ。余は魔王になるぞ―信長十八歳。うつけ者と信長を棟梁に認めぬ叔父、弟を謀殺、やがて尾張を襲うだろう大敵、今川、斎藤との勝目のない決戦に死を覚悟で挑む。内憂外患の若き信長の孤独と、唯一人心を許した年上の恋人、吉乃との交情を初めて詳細に描く歴史長編。〈上〉
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
185
          
            母や同族から軽んじられ世継ぎと認められない信長が、9才上の吉乃を母のように慕う所は、この男の柔らかな生地に触れた気がする。彼はどんな場合でも精一杯生きただけだった。「あの男を棟梁にしては尾張は支えきれぬ」と皆が不信感を抱く。これだけ裏切られ続けたら、周りの誰も信用できなくなるだろう。信長は生き延びるために孤独になろうとした。禅僧から聞いた「人間五十年~滅せぬ者のあるべきか」を自らの覚悟と決めた。親兄弟が殺し合うのが当たり前の時代に、生き残ることがどれほど大変か…それを思いつつ、助け合うことの意義を考えた。2024/06/08
          
        akio
36
          
            遠藤周作の歴史物は初めてで、しかも織田信長をどう描くのか、興味があったものの長く積んでいました。実際に読んでみると、資料や取材などしっかり時代論証を経た上で歴史小説に落としこんでいると感じました。戦国の男の生き方、女の生き方にそれぞれの悲哀があり現代とは全く違う価値観なのだということを改めて噛み締めました。2019/06/05
          
        金吾
30
          
            若年の信長の考えや苦悩が書かれています。林通勝、信行、市、濃の人物像が独特な感じがしました。2023/04/27
          
        活字の旅遊人
26
          
            信長の相続から家内で覇権を握り、桶狭間に向かうまでを、遠藤周作が描く。『武功夜話』に依拠。信長のみならず、濃姫、市、藤吉郎と今までの自分にあるイメージとはかなり異なる。1994年の文庫本なのだが、これによるイメージはその後も浸透していない、という事実を確認することになった。テンポはよく、読みやすい。できるやつ(信長)の苦悩を描くのも、遠藤周作らしい気はする。が、キリスト教が全く出てこないのは、寂しいかな。それと、戦国の世だとか、天下人になるだとかいう台詞が当時の人物から発せられるのか、ちょっと疑問。2021/03/10
          
        rokubrain
11
          
            前野家文書の「武功夜話」が多くの着想を与えてくれたようだ。  父信秀の死後、信長が一族の棟梁と認められるまで意外と時間がかかっている。 その間、織田家重臣の林通勝や柴田勝家の反抗があり、弟、信行の謀反も経験している。 実母土田御前も弟の方に愛情を注ぐ。 生涯、自分以外誰をも信じない性格はそんな過去から形成されていったようだ。  神も信じない、仏の助けも認めない、残されたものは死への覚悟。 その覚悟のために人知れず心を鍛える修行を自ら課した。 「人間五十年・・・」の幸若舞の一節は彼の人生訓になっている。2018/05/13
          
        

              

