内容説明
現世と冥界を自在に往来し、西行、式子内親王、定家、則天武后、西脇順三郎たちとくりひろげる典雅な交歓と豊潤な性の陶酔。「大人のための残酷童話」の著者の奔放なイマジネーションが、時空を超えて媚薬の香りに満ちた世界へ読者を誘う。幻想とエロティシズムの妙味を融合させた異色の文芸連作二十一編。
目次
花の下
花の部屋
海中の城
媚薬
慈童の夢
永遠の旅人
秋の地獄
城の下の街
花の妖精たち
月の女
遁世
雲と雨と虹のオード
黒猫の家
赤い部屋
水鶏の里
蛍狩り
紅葉狩り
蛇とイヴ
春の夜の夢
猫の世界
夢の通い路
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
254
２１もの物語からなる掌編小説集。１つ１つは、それぞれわずかに数ページだが、お話のスケールはなかなかに壮大だ。なにしろ、「あちらの世界」の住人がこちらにやってきたり、また時には桂子さんがあちらへ迷い込んだりもする。やって来るのも西行や定家から則天武后、さらには六条御息所やかぐや姫といった物語の中の人物までが縦横無尽に入り乱れる。篇中に挿入される歌も幻想を誘う。「夏の小車」の定家歌はいうにおよばず、けっして名歌とは言い難いものの、物語集に着想を与えた僧正遍昭の「夢のかよひ路ふきとじよ」もそう思えば捨てがたい。2015/06/24
さつき
78
桂子さんのところにはあちらの世界から様々な人々が訪ねてきます。西行、後深草院二条、式子内親王、エルゼベート・バートリ…その美意識の赴くままに幻想のひとときに浸りきる。生きているなら大事であろう愛や情は脱ぎ捨てて、花や虫になったかのように。恐ろしくも美しい夢からはもう逃れられない。文豪怪談ライバルズ！所収の二篇に魅了され読みましたが、もっと桂子さんを追いかけてみたくなりました。2022/06/07
安南
51
掌編21話。その一つ々が陳腐な愛だの恋だの入る余地のない禁忌なき歓びそのものを描いた高尚なポルノグラフィのようだ。桂子さんは夜毎、夢現虚実の境を軽やかに行き来して四季折々の風雅を楽しみつつ、ついでのようにこの世のものではない彼ら（佐藤さんこと西行、二条と後深草院、定家、西脇順三郎、六条御息所、紫式部、エリザベート バートリーまで！豪華キャスト）との交歓を堪能する。その嫋嫋としたエロティシズムは植物的であり爬虫類的でもあるが決して生身の人間を感じさせることはない。涼やかな芳香に浸る贅沢な時。2015/04/05
藤月はな（灯れ松明の火）
26
西行、後深草院、二条、紫式部、藤原定家、蝉丸、バートリー侯爵夫人、メディアなど時代を越えた現実と地繋ぎの異郷や異界で桂子さんは樹木のような交歓を行う。熱量を感じさせる肉の匂いではなく、刈り取られて緑の血を流す植物の息切とささめきのような交歓が淡々と語られるにも関わらず、より、エロスティックでした。子供が常識的な受け答えをしているのに対し、怪異を受け止めている桂子さんが謎なお人です。2012/06/26
エドワード
24
毎年一回は能を鑑賞するのだが、能の中では死者と生者が違和感無く語り合う。今回はさながら読む夢幻能だ。西行が佐藤さん、定家が藤原さんという紳士の姿で現代に現れる。「とはずかたり」の少女、二条はコーンウォールまで媚薬を求めて旅に出る。月からは嫦娥が降りて来る。古今東西の人物が黄泉の国から来る道が＜夢の通ひ路＞。「一度この時代のものを着てみたかったの。源氏物語絵巻をデュフィやオキーフに描いてもらうのはいかが？」とのたまう紫式部（彼女も藤原さんネ）に仰天。最後に道がふさがれるのは嫉妬の故。うまくは行かないものよ。2016/01/25
