内容説明
記憶を一日に二日分ずつ忘れ蝶に食べられてしまった彼女は、二十歳の誕生日にすべての記憶を失なってしまう。しかも、それは明日なんだ。不思議な少年といっしょに帆立貝転送機に乗った私は、忘れ蝶をさがして記憶装置の迷宮へ。取り戻したのは彼女の?それとも私の記憶?俊英が放つ異色の長編作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
不在証明
10
オビに笑いすぎ注意みたいなことが書かれていて、失敗したかなと思いましたが杞憂でした。蝶を追って不思議の国へ。そこは笑いと不条理のワンダーランド。文字と記号で作られた中では、ジェットコースターに乗ったり、迷路で迷ったり、美術鑑賞したり。飽きさせない夢の世界。絵画の「モネ 印象・日の出」が漢字と記号で表されてるのを見て似てる似てると笑ったけれど、よく考えたらAA(アスキーアート)だこれ……。一番笑いのツボを押してきたのは「似ているもの対決」での「梶井基次郎」と「近藤勇」。2016/04/03
けいすけ
8
イメージ画像もないし、どの書店探してもないしで、Amazonという文明の利器を用いてようやく手にした一品であり逸品。便利な時代になったもんだ。調べるとおそらく絶版になっているようで、そりゃ見つからないわけだ。一言でいうと不思議な本だった。ラストは抽象的だったけど、そこ以外は笑いあり涙ありのファンタジックな内容で僕的にはもっと注目されててもいいのに、と思った。電車の中で読んでて笑いを堪えるのに必死だったなあ。2015/03/02
あ げ こ
7
溢れんばかりの言葉の山。まるで言葉のテーマパークのような世界、随所に散りばめられた文字と記号の仕掛けが楽しい一冊。忘れ蝶を巡る「僕」と「少年」の冒険は、ナンセンスな言葉遊びが生むくどさを補って余りあるほどの、夢のような面白さ。だが言葉を存分に遊ばせて作ったその世界はひどく曖昧で、不穏な現実を秘めたもの。世界の仕組みを語る、未来人の示唆に満ちた言葉。種明かしに覚える、悪い予感が的中したような寂しさ。夢の終わり、夢から覚め、現実へと帰る瞬間は、仄かに残った温もりさえ哀しみを誘う。2014/01/29
加山
5
恋人の記憶を取り戻すため少年と旅する僕と、元恋人の記憶を取り戻すためその彼女と旅する僕。ボーリングやアンネフランクの街、ギョーザ、そして記号など、独特の世界に初めて読んだときはとても驚いた。思い出しては何回も借りて読んでいる。いい加減買いたい。 終わりは始まりにつながっていて、始まりもいつかは終わりを迎える。心が苦しくなる。2011/02/07
里理
5
彼女の中に巣食う、記憶を食べる蝶を探しに彼女の記憶の中に入る主人公。その物語と並列して、10年後の今の物語も進んでいく。ファンタジーだけど、それだけではないようにも思う。文体も面白かった。ちょっと人を喰ったような考えをする人は好きだ。なんて言ってみたりして。2009/08/04