内容説明
世界恐慌を迎えた1990年、世界には奇妙な動きが相次いだ。日本でもパニックとクーデターが誘発する。暗躍する巨大金融企業集団「ザ・セブン」に全面対決を挑む政治結社「狩猟社」が企てたのだ。若きカリスマ、トージの意識が日本を動かし始める。この危険な小説に描かれた世界はすでに現実である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
112
カリスマという英雄が率いることで世界の歴史が刻まれるという認識が蔓延しているように思いました。それはファシズムの肯定であり、その意識が日本を動かしていくのですね。その危険性は暴力をも認めるような気がしてなりません。意識によって変わり始めた日本の危うい状況が現実として見え始めていることの示唆をしたかったのでしょうか。面白いのと同時に違和感が残る読後感を味わった作品です。2017/05/08
優希
86
カリスマの意識が日本を動かし始めるという歴史の流れが恐怖心を誘います。パニックやクーデターが誘発されていくことからもその危険性が見て取れました。意識による日本の変化という怖さは、暴力すら認め、世を動かすことに通じるのかもしれません。この危うさは現実として起こり始めていることの示唆のように思えます。2018/06/07
at-sushi@進め進め魂ごと
80
刊行時に描かれた国際情勢とは随分異なる未来を迎えてるわけですが、プライドも危機管理能力も無い与党、政権担当能力が無い野党という国内政治状況は殆んど変わっていない事実に空恐ろしさを覚える。 この時期の龍作品の、既存体制やシステムに対する憎悪を燃料にしたようなパワフルさとロックなテイストは唯一無二だ。 後継と言える若手がいない中、まだまだこういう刺激的で骨太な作品を書いて欲しいものだ。2020/12/13
キク
63
テロやクーデターも織り交ぜ、カリスマであるトウジが率いる狩猟社は日本を掌握して、世界と対峙していく。その過程で狩猟社に集まってくる日本を代表する政治家、学者、テロリストたちを、トウジは「存在するために、トウジを崇拝する必要がある」という理由で軽蔑していく。トウジが世に出ていくきっかけを作ったゼロはロマンティストで、闘争をエスカレートさせる狩猟社内部で居場所を失い、酒と女に溺れていく。でもトウジの友はゼロだけで、愛した女はゼロの恋人であるフルーツだった。それでもトウジは止まらない。独裁者の業の深さが凄まじい2022/08/18
metoo
63
涙が止まらなかった。最後の章のためにこの長いストーリーは用意されていた。システムにイライラし反発したくなる気持ちや長いものに巻かれてたまるかといった気持ちには共感する。そこが、この作家の魅力なんだろう。思わず本書の書かれた時期を見直す。この後、世界中で起こったテロ、事件、そして日本ではある宗教団体の暴走。予言めいた内容であるにもかかわらず、本筋は、コインロッカー・ベイビーズの奴らの生まれ変わりであり、誰にも媚びずに真剣に生きた若者の、密度の濃い青春ストーリーだと感じた。2016/06/09