内容説明
夏の終わり、僕は裏山で「セミ」に出逢った。木の上で首にロープを巻き、自殺しようとしていた少女。彼女は、それでもとても美しかった。陽炎のように儚い一週間の中で、僕は彼女に恋をする。あれから十三年…。僕は彼女の思い出をたどっている。「殺人」の罪を背負い、留置場の中で―。誰もが持つ、切なくも愛おしい記憶が鮮やかに蘇る。第42回メフィスト賞受賞作。
著者等紹介
白河三兎[シラカワミト]
『プールの底に眠る』で第42回メフィスト賞を受賞しデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
みっちゃん
117
自殺を試みる少女に出会う1995年と殺人未遂の罪で留置場で過ごす2008年の2つの視点。冒頭のイルカの死場所の挿話が印象的。全編にちらつく死の影。大切な人を失う喪失感、その死に自分の所為であり、罰と呪いを受けるべきという罪悪感が痛々しい。重要と思わせながら活かされない人物や手紙など、不満もあるが、それでも、滑らかな文章、瑞々しい感性、優しい気持ちになれるラストと、とても魅力的な作品だ。2014/06/11
hit4papa
60
多感な10代のひとときを切り取った青春小説です。主人公の男子高校生とエキセントリックな二人の女子との交流は、微妙な恋愛もどきが上手く表現されています。翻訳小説のような洒落た会話は好み。30歳となった主人公の回想が、現状にどうつながっていくのかがミステリ風味。読み進めると、さりげない伏線がさりげなく回収されていくのが分かります。大仕掛けはなくとも愉しめます。現代の主人公が何の罪を背負っているのかが判明する件は、賛否分かれるかもしれません。その分は、ラストで取り返してくれます。内省的と言われればそうかも…。 2024/02/21
ゆか
56
文体の持つ雰囲気がとてもステキな作家さん。ただ皆さんの感想を読むと、もしかしたら、読み落としがあったのかな、読み取れてない部分があったのかなと不安になりました。改訂版もでているようなので、そちらにも挑戦したいです。本筋とはまったく関係ないのですが、ふりかけのエピソードが心に残りました。わさびふりかけが父が嫌いなため、自分が担当になる。だけど自分もわさびが好きではない。自分で毎日わさびにならないようローテーションを組む。わさびなんてぼくも食べないよっていうことに躊躇する主人公の心の使い方に胸が痛みました。2015/12/14
とも
56
★★★★著者の既読『私を知らないで』に続く2冊であるが上手い。幻想的な導入部でしっかりと気持ちを掴まれ、本文に入れば一気に物語の世界観に引きずり込まれる。全体的には決して明るくはないが闇ではなく、ぼんやりと薄明かり(星灯り)が照っている程度。その中を、現在と過去 主人公イルカとセミ、それに幼馴染の由利が交じわっていく。兎角、3人いれば諍いは起る。それを上手に処置できず心に傷を負った登場人物たちの再生の物語でもある。最後は全体の光度が強まるが、それも十五夜程度というのもも全体の雰囲気を壊さずによろしいかと。2015/11/22
エンリケ
39
主人公の内省世界をデリケートに描く作品。先行きが予測出来無い展開を満喫。少年の事なかれキャラの裏側に有る冷たい世界の由来が二転三転しながら深掘りされる。その海の底の様な深層に滑り込む自殺未遂をした美少女。二人の関係はタイトロープの様に危なっかしく、不安を煽られた。特に真夜中のスイカ割のシーンには不吉な想像に戦く。しかし文調は柔らかく、時に笑いさえ誘う。周囲の負の感情を飲み込んだ彼の心は知らず腐敗していくが、少女のおぞましい嘘が実は彼を救う。過去と現在を不穏に行き来する物語の着地点は実にお見事だった。2015/08/27