内容説明
現代文明は人類に物的な豊かさをもたらした。だが反面、私たちは果てしなく欲望をふくらませ、人間として大切な多くのものを失ってきたのではないだろうか―。ヴァグネルは精神や思想、言葉、家庭、教育など日常的なテーマをとり上げて簡素の本質を論じ、人間の永遠の幸福の基礎は心の簡素、生活の簡素にあると説く。百年前の書でありながら、今もなお新しい。
目次
複雑な生活
簡素の精神
簡素な思想
簡素な言葉
簡素な義務
簡素な欲求
簡素な楽しみ
営利精神と簡素と
売名と世に知られぬ宝と
世俗趣味と家庭生活と
簡素な美
交際関係における傲慢と簡素と
簡素のための教育
むすび
著者等紹介
ヴァグネル,シャルル[ヴァグネル,シャルル][Wagner,Charles]
1852~1918。フランスの宗教家・教育者。はじめプロテスタントの牧師となるが、のち教会を離れ「魂のふるさと」という寺院を創立、社会事業、初等教育の発展に貢献
大塚幸男[オオツカユキオ]
1909年佐賀県生まれ。九州帝国大学卒業。福岡大学名誉教授。専攻はフランス文学・比較文学
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感想・レビュー
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esop
71
人は財貨を持っていればいるほど、ますます財貨が欲しくなるのです/簡素とは一つの精神状態ーーただ単に人間であろうとすることし存している時には、その人は簡素/よく生きることとは、よく思索することと同様、簡素化すること/幸福とは真の生活者たるに在るということー活動的で果断で情念のくびきや不自然な欲望や病的な刺激などに汚されず、日光や呼吸する空気を楽しむ力をその肉体に蔵しており、けなげなもの、簡素なもの、美しいものの一切を愛し感得する力をその心に蔵しているところの真の生活者たるにある2024/03/20
杜のカラス
28
これも、ひとつの断捨離であろう。贅沢とは、なにか、清貧とは、何かと考えるとき。一つの答が出る。食欲でも、生きているうちに、好きなものを食べることができるだけ食べる、いずれ死ぬのだからという考え方。その反対、健康に留意し、無駄や健康に害のあるもの、宗教上食べてはいけないとされるものを、その美味しさをしっていても避ける。それは自己判断、その後者、清貧を指示する側が著者である。私も同意見、だがあくまでも自分だけのこと。所謂お一人様で、お金を持っていても、死ねば持って行けないなんて人は、どんどん使うがよろしい。2023/04/21
壱萬参仟縁
19
1895年初出。 邦訳初出は1953年。 簡素な生活をあこがれることは、まさに人間の最も高い運命を 完成しようとあこがれること(9頁)。 自由とは緩慢にして辛抱強い内的な変化によって人が呼吸できる ようになる、すぐれた生活の雰囲気(28頁)。 自由とは尊敬、内的な掟への服従(29頁)。 簡素とは一つの精神状態で、ある人の最高の心がかりが自分の あるべきものであろうとすることに存している時には、 すなわちただ単に人間であろうとすることに存している 時には、その人は簡素(傍点、35頁)。 2014/03/31
耳目之学(不定期更新中)
7
著者の言いたいことは「足るを知ること」と「謙虚と感謝を忘れるな」の2点であると思う。この2つの原則を生活や交友、言葉などに適用して社会問題と人生について論じています。私が良く読む東洋思想の古典と通ずるものがあります。キリスト教徒の書いた思想系の本は神の存在が前提として書かれている傾向にあり、非キリスト教徒には難しいことが多いです。ヒルティ『眠られぬ夜のために』などが代表例です。その点、筆者はプロテスタントの牧師さんですが、キリスト教的な雰囲気は一切ないので楽に読めます。良い買い物でした。2011/04/27
リクット
3
1895年に書かれたこの本の簡素な生活というのが現代においても通じるこに驚くとともに130年経とうが人間の幸せに大きな違いはなくそれは『簡素な生活』に収束する。 質素に暮らし、隣人に尽くし、よく働くそれは人間の満足感が現れる。 欲望の奴隷になってはいけない。お金があるから満ち足りるのでない。満足するすべを心得ているから満足しているのだ。 幸福とは130年くらいでは変わらないものなのだ。2022/07/26