出版社内容情報
内山 俊彦[ウチヤマ トシヒコ]
著・文・その他
内容説明
古代戦国期、秦帝国出現前夜の激動の時代を生き、儒家ながら、伝統的な儒家の枠組みに収まりきらない異色の思想を展開した荀子。「性悪説」で名高い人間観や「天人の分」で知られる自然観、「礼の王国」論に見られる国家観等々、現実的かつ合理性に貫かれたその思想像を多角的に探り、中国古代思想史上の位置を明らかにする。
目次
1章 荀子の生涯とその時代(激動と予兆と―戦国末期の社会;戦国最後の儒家―荀子の生涯)
2章 荀子の思想(天と人―自然と人間;人の性は悪なり―人間観の構造;礼の王国―国家構想 ほか)
3章 思想史のなかの荀子(理念と現実の間で―宿命としての虚構;諸子の時代の終末―荀子から荀子以後へ)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
60
習近平は人間性悪説に傾倒しているとの文章を読んで荀子に興味を持った。文革期の下放体験で人の弱さ愚かしさを思い知らされた習は荀子を通読し、性悪説に基づく法家思想の統治を行った秦の始皇帝に自らを重ねていると。法家というと弟子である李斯による厳格な法治主義の政治が知られるが、本書で描かれる荀子は人は悪に染まりやすく弱いからこそ深く礼を心得ねばならぬと主張している。しかし、人に礼を修得させる教育より有無を言わせず法を守らせる方が楽なのは自明であり、習近平独裁は法家思想にマルクス主義が重なって生まれたと理解できる。2021/02/20
姉勤
31
題目の最初に仁義を解く儒家において、人は元々善性は無く、その性は後天的なもの「性悪説」で知られる、荀子。その書物の現代語訳ではなく、人物と時代と世界、関係性を解説した本。儒家の先人である孟子を否定し、道家の荘子の影響を受け、弟子の李斯と韓非子に法家のルーツ足りえる思想は、諸子百家のひとつの輝きを持ったものが、秦・漢という統一国家の強大なイデオロギーを構成する一部分として、本質は換骨奪胎されていく。戦国時代という波瀾の時代こそ生まれた思想が、平和な時代に不要と、消される。著者が感じた寂しさと懐かしさ。2022/10/30
燃えつきた棒
29
性悪説に興味があって、手に取った。 学生にテストを実施し、答案用紙は自己採点後破棄させ、得点に応じて報酬を与えたところ、平均点が普段より目に見えて高くなったという行動経済学の実験もあったっけ。 いつまでたっても無くならない政務活動費の私的流用もしかり。 去年の「夏の文学教室」で平野啓一郎が言っていた「森鴎外は、システムの重要性に着目していた人だった。」という言葉を思い出した。 2017/04/28
まふ
3
儒家の最後の人荀子の人と思想を概説したもの。性悪説は彼のオリジナル。自然を外的なもの「天」と人間の生まれつきがそうであるもの、内的なもの「性」とに分け、性は欲であり、悪であり、放っておくと収集がつかなくなるから「偽」という人為的な意思の力で制御するこれでバランスが取れる、というものということらしい。なるほどと思うところあり。孟子の「性善説」よりは遥かに説得力ある。唯物論者でもあるらしい。また「名」と「分」は結局この性悪説から来ているということであるらしい。まあ、分かったということにしておこう。2004/05/09
紫暗
3
荀子の思想の解説はもちろんあったのですが、本文の引用が少なく、逆に西洋哲学との対比や著者自身の解釈がかなり多めでした。西洋哲学が苦手な私には解説自体が難解に感じられました。著者の考えが入るのはともかく、もう少し本文の解説をきちんとしてほしかったです。哲学用語的なカタカナ語も出てきますので苦手な方はご注意を。2011/01/26