内容説明
二十世紀は、アインシュタインの相対論革命で始まった「物理学の世紀」であった。ナチスに追われてアインシュタインが去ったドイツで、量子力学の完成に心血を注いだハイゼンベルク。不確定性原理、原子核構造論、統一場の方程式などの業績は、旧来の科学を支えてきた哲学概念の根本的な変革を促して原子核物理学から核兵器に至る道程を拓いた。二十世紀物理学の驚異のドラマを鮮烈に描いた力作。
目次
第1章 世紀末の巨人
第2章 世紀初の巨人
第3章 何が問題か
第4章 相対性への予感
第5章 アインシュタインの解決
第6章 量子力学への予感
第7章 仲介者ボーア
第8章 ハイゼンベルクの解決
第9章 ハイゼンベルクその後
第10章 ハイゼンベルク―思想家としての
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえ
7
ニルス・ボーアについても記述がある。「ボーアについて書いておかなければならないことがある。それは…母親エレンの出自にまつわることがらで…ユダヤ人であった。エレンは、ヨーロッパ在住のユダヤ知識人の多くがそうであるように、クリスチャン・ボーアとの結婚によって、ユダヤ教の文化圏から完全に離脱したが、のちにナチズムのユダヤ人迫害がデンマークにも及んだとき、ボーアはユダヤ人として扱われることになる。…ハイゼンベルクがアインシュタインやボーアに示す尊敬は、ドイツにおける彼の地位をあやうくすることさえあった。」2022/05/07
富士さん
3
長らく探していたので、神保町で見つけた時は小躍りしました。期待に違わぬ内容でした。副題の方が本題といった内容ですが、物理学史であるだけでなく、見事に20世紀思想史になっているのがさすが村上先生、見事な仕事です。世界を説明するのが物理学ならば、それは当然一部分の出来事の説明にとどまらず、時代の世界観にリンクしているはずです。そこには理系も文系もなく、人々が考える基準として作用するもので、本書がE,マッハに注目されているのは、まさに絶対的な存在を前提にする世界観の崩壊の始まりとして著者の慧眼を感じるものです。2019/10/13
牛タン
0
物理史としてよく書かれていた2011/09/05
bittersweet symphony
0
ハイゼンベルクの伝記のような体裁なのですが、前半は大方アインシュタインによる相対性理論や量子論の話が続きます。後半の最終的に量子力学が確立されていく時期の群像劇の通奏低音として前半の記述が確かに必要であり、プランク、ボーア、シュレーディンガーなどのつばぜり合いはかなり読み応えがあります。その話の悲劇的帰結としてマンハッタン計画に結実する原子爆弾開発の話が紹介されていますが、この辺だけをもっと詳細に論じるというのもテーマとしては興味深いものですね。2006/06/15