内容説明
魔女とは何か?魔女の淵源は古代地中海世界の太母神信仰に遡る。それは恐怖と共に畏敬にみちた存在であった。時を経て太母神はゲルマンやケルト等の土着の神々と習合し、キリスト教との相克の過程で「魔女」に仕立て上げられていく。そして中世の異端審問、凄惨な魔女狩り…。民族学、神話学、宗教学、精神分析学等々、広範な学問の成果に立脚し、魔女を通じて探った異色のヨーロッパ精神史。
目次
第1篇 キリスト文明と魔女(ディアナ信仰とキリスト教;ユダヤ教―一神教と自然宗教の間;民間伝承としての魔女信仰 ほか)
第2篇 魔女狩りの構図(異端審問と教会位階制;キリスト教エリート文化と民衆文化;産婆と魔女 ほか)
第3篇 ヨーロッパ思想の中の魔女(ルネサンス魔術と魔女裁判;魔女狩りとプロテスタンティズム;魔女狩りの衰退と神学の変容 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マウリツィウス
16
【ファウスト誕生背景】北欧/ギリシャ/キリスト教/異端/土着信仰の混淆風土が宗教改革思想への反動により形成された幻想譚としての《魔女》、その実質の発生因は黙示録にても予告されるがキリスト教における異教との乖離が根源となり、必然としてラグナロクの神々との闘争現象と化した《魔女狩り》、ラヴクラフトのセイレム魔女裁判でさえ性質を同様としている。しかし紡ぎ出された真実は異端審問を滅ぼす。この悲劇の救済は教会史に隠れ潜んだ反キリストをエーコの通り逆に断罪する。ディオニュソスはキリストと共に共通の害悪を殲滅し切った。2013/05/05
柏もち
10
魔女の存在や魔女裁判の実態などより、キリスト教の歴史がメインな感じ。ユダヤ人迫害へ繋がるためか、ドイツが頻繁に出てくる印象。キリスト教が現地宗教を習合していく過程、南欧型と北欧型の魔女の二類型、異端審問と魔女狩り衰退までの過程が興味深かった。キリスト教には「自然に対する暴力、肉体と欲望への蔑視、そして自然を保持した女性に対する憎悪」といった要素が流れている。確かに聖書からもそういう面が窺える。2016/05/27
misui
6
キリスト教以前のユダヤ教から豊穣神信仰があり、伏流するそれらが魔女信仰として表面化していく…という主張を元に魔女狩りの歩みを見渡せる便利な一冊。セム族の土着信仰に始まり魔女狩りが終焉して精神医学に至るまでととにかく範囲が広く、様々なトピックが拾える。ノマド的な人々が定住地を持たないために土着の古い信仰からキリスト教に向かった点や、セイレム以前の魔児裁判のパニックについてなどは、特にありがたい記述だった。2019/07/11
ゲニウスロキ皇子
6
魔女を手がかりにキリスト教とヨーロッパの歴史を見つめていく本。記述の射程は非常に広い。まずは古代キリスト教が異教の太母神崇拝を飲み込んでいく中で形成された魔女観念を分析する。次に、悪名高い魔女裁判の記述や、プロテスタンティズムと近代合理主義による魔女への臨床医学的なまなざしなどを通して、ヨーロッパにおける「魔女概念」の変遷を描いていく。そして、現在でもヨーロッパにはキリスト教という表層の下には、魔女を育む精神的土壌は生きながらえていると結論している。非常に面白い本なので気になる方は是非ご一読を!2012/10/07
ふたば
3
誤字の範囲では収まらない間違いが多すぎる。ギリシア・ローマ世界についての間違いはまあ百歩譲って目を瞑るとしても酷過ぎ!七十人訳聖書(セプチュアギンタ)をスペチュアギンタと表記しヘブライ語聖書だと言ったり、「ゴルゴダの丘」とか言ったり。アリストテレス学がキリスト教化されるってくだりで「ギリシア哲学のもつ快楽の要素、例えば笑いの章は削除された」とあって嫌な予感がしたんだけど、その参考文献がやっぱり『薔薇の名前』でがっくりきた…というか笑えた…。最後の一章は興味深かったけれど。まともに読んではいけません。2012/12/30
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- 和書
- 秩序問題と社会的ジレンマ