内容説明
本書の狙いは、昔の話をすることではない。現代世界の倫理構造を明らかにして、21世紀の文化の骨格を示すこと、21世紀で有効となるような倫理学の輪郭を描き出すことである。
目次
人を助けるために嘘をつくことは許されるか
10人の命を救うために1人の人を殺すことは許されるか
10人のエイズ患者に対して特効薬が1人分しかない時、誰に渡すか
エゴイズムに基づく行為はすべて道徳に反するか
どうすれば幸福の計算ができるか
判断能力の判断は誰がするか
「…である」から「…べかである」を導き出すことはできないか
正義の原理は純粋な形式で決まるのか、共同の利益で決まるのか
思いやりだけで道徳の原則ができるか
正直者が損をすることはどうしたら防げるか〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
田氏
24
言葉を覚え始めた娘が、やがて「ねえねえ、『正しい』ってなにー?」なんて聞いてくる。そんな日が来たときに備えて、正しさとはなんだろうと日々考えているのだが、自分にそんな日が来る見込みはゼロに等しいので杞憂である。うーん、正しさを評価するものにとって、その行為により生じるコストが受け入れ可能であるか否かの差なんじゃないかと僕は思ってる。わかんなーい。そんな受け答えを想定するのも杞憂である。あのさ、あのときお父さんの定義した正しさって、正しかった?成長した娘の問いに答えることができないシーンの想像も杞憂である。2020/12/13
テツ
21
このあやふやな世界の中で揺らぐことがなく破壊されることのない確固とした何かを見出したい。非の打ち所がなく自らの礎となる規範が存在したらどんなに楽になるのだろう。そのために積み重ねる思考。ありとあらゆる問題に対して自分の思考と言語だけで渡り合う訓練。人の身でどれだけ積み重ねたとしても完璧な(狭義の)道徳に至ることもなければ、真理に目覚めることもないのだろう。人に許されるのはそこに到達するための道を見出し、到達しないことを知りながら歩み続けていくことだけ。2020/08/05
neputa
19
日常にあふれる情報の波に押し流されぬよう、倫理学の門を叩くことに。先に読み始めた『入門・倫理学』は網羅的・体系的に倫理学をまとめており良いが、論文集の色合いが濃く用語や訳の難解さに直面。実際の社会問題と倫理を併記して紹介する本書を並行して読み進めることにし、これが正解だった。自己啓発本のように答えを明確に示すものではない。だが掲載されている賢人たちによる思考の蓄積は、日々の生活で直面する善性や正しさに対する迷いを、どう思考整理し捉えるかの大きな助けになると感じた。しばらく倫理学に傾倒してみようと思う。2023/02/20
ヤギ郎
16
倫理の教科書に必ず登場する哲学者の理論を借りながら、現代が抱える道徳的問題を考察してゆく本。ただただある一人の哲学者の著作を読み解き、その人の理論を学んでゆくような構成ではなく、より実践的な哲学考察を行っているので、内容を身近に感じまた面白い。現代倫理(道徳)を考えるベースとなる一冊。2015/09/28
里馬
16
とうとう入門してしまった。『正義』とか『幸福』などと抽象的で曖昧な物を扱う学問なんて胡散臭いと思っていた。ふうーっ。こりゃあいつもあいつもあいつも倫理学に惚れこむ訳だ。カントやミル、加藤尚武に出会えて嬉しい。2009/06/06