内容説明
科学革命以後の近代科学を絶対普遍とみなし、科学史を単線的進歩の過程と捉える硬直した歴史観と対決することは、科学史の第一人者である著者の終生の課題である。魔術・錬金術・占星術など、従来は擬似科学としか評価されなかった西欧中世のオカルト・サイエンスを厳密な方法論により分析。科学革命前夜の神秘思想やヘルメス主義の諸相を論じ、謎に充ちたルネサンス期科学を照射した画期的論考。
目次
踏み出す第一歩
方法論の問題
神秘思想の評価
プラトニズム・ルネサンス
十五世紀対抗文化の諸相
錬金術の展開とその意味〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やす
3
現代的な視点をできる限り排除して、当時の視点に立って歴史を見るべきということらしい。 どうしても価値観とか考え方とか現代のものになってしまうから、ニュートラルに物事を見るのは難しい。2024/03/31
Tommy
2
だいぶん古い本なので、今だとだいぶん定説にも修正が加えられているだろう。それでも一般的にはキリスト教vs近代科学という構図はまだ根強い。そして専門家でもない限り、その進歩史観を修正する義務もない。実際は通説とは異なっているんだよと言われても、専門外の人は細かいことはどうでもいいって思いそう。正しい歴史認識が大事だという認識ってあまり共有されてないから。2025/05/05
富士さん
2
再読。本書の要点は現代中心の歴史観への懐疑とサブカル的神秘思想の正当キリスト教との合体を特徴とするルネサンス観の二つだと思います。歴史観の問題は、村上先生の“正面向き”が正解だとするのではなく、一つのものに固定させないというのが重要でしょう。ルネサンス観については、P.ファイアーアーベントさんや飯塚信雄さんの論を思い出し、刺激的でした。神秘思想の際限のない想像力こそ、ルネサンス期の豊穣な科学的成果を生み出した土壌となり、経験に縛られて枯化していくヨーロッパ社会に若木を接木してきたのだろうと思いました。2015/10/21
あろんそ
0
冒頭のていねいな検討がたいへん勉強になり、科学というものについてよく考えるきっかけになった。これまでは近現代科学の観点からの科学史しか知らずに来てしまったので、中世の科学とその周辺の知識をもっと補強してもう一度読みたい。2012/02/10
ハラペコ
0
勝利者史観とそれを回避していると標榜する人の一部を否定する。過去の科学者は未来の科学のための準備をしていたのではなく、各々が(当時の)最新の知見を掛け合わせていた。それを汲み取る作業を「正面向き」と表現し、中世から近代にかけて追っている。本書もまた、著者が否定する「遡及主義」をキリスト教、魔術、異教、錬金術、数秘主義のアマルガネーションにおいて行っているようにも見えるが、各時代の著名人を、現代科学への寄与度を度外視して取り上げることで「正面向き」の流れを担保している。2024/06/29