内容説明
ひたすらな瞑想により最高の自己実現をみる茶道。本書の冒頭で天心は「茶は、日常の事実における美しいものの崇拝、すなわち審美主義の宗教としての茶道に昂められた」という。明治三十九年、天心は西洋文明に対する警鐘をこめて、茶の文化への想い即ち東西の文明観を超えた日本茶道の真髄を切々と綴った。精魂をこめた訳文により天心の精神がいま静かに息づく。原典英文収録の名著復刻の決定版。
目次
第1章 人情の碗
第2章 茶の流派
第3章 道教と禅道
第4章 茶室
第5章 芸術鑑賞
第6章 花
第7章 茶の宗匠たち
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
著者の生き様を学ぶ庵さん
39
岡倉覚三は六歳から英語を学び、ヴィクトリア朝のクイーンズイングリッシュを修得。訪米時に「お前は何ニーズだ? チャイニーズか、ジャパニーズか、ジャヴァニーズ(ジャワ人)か」とアメリカ人に冷やかされ、「あんたこそ何キーだ? ヤンキーか、ドンキーか、モンキーか」と口喧嘩が出来るレベルに至る。本書では日本文化への愛情が強過ぎて、欧米人に喧嘩を売っていると思しき箇所もあり。内容は茶道の作法・流派、茶室、茶器、花から禅・道教、芸術鑑賞まで話題が広がり、千利休が切腹するところで終わる。失われた日本文化を知る良書です。2016/12/09
壱萬参仟縁
38
和英対照がいい。まだ感想を書いていなかったようだ。今、百年文庫15『庭』を読んでいる。庭に落ち葉が落ちているが、美をどうとらえるか、個人差もあるのが庭のとらえ方だと思う。茶室も庭との調和なくして美を醸し出せないのかもしれない。茶室と庭は相互作用あってこそ、住居とその小宇宙が実感されると思われる。2021/05/30
ヒロミ
15
明治時代の美学者・岡倉天心による茶と茶道、芸術鑑賞や花など多岐にわたるそれぞれの美を論じた世界的に著名な美学の書。横浜育ちの天心にとって英語は殆どネイティヴだったらしく原文は英語です。原文と訳文が収録されているのが嬉しい。訳文は圧倒的な美文。原文も古語を用いられ格調高い。歌い上げるかのような詩的で美しい文章で綴られる訳文を読んでいると明治の文化人サロンを垣間見たような気にさえなる。「おのれを美しくしなければ、美に近づく権利はないのである」という言葉が深々と刺さった。橋本治や三島由紀夫が好きな方にもお勧め。2015/04/07
ぺんぎん
11
やれ「コスパ」だ「タイパ」だとのたまい、結果を迅速に完璧に出すことを善とする現代社会では、不完全さに美を見出し、功績・手練・技術・名声よりも過程・魂・人間性・質を重んじる「茶気」がますます蔑ろにされるだろう。ましてや空虚の中にある本質や、無用の用という芸術性など「無駄」と切り捨てられ、千利休の最期のような偉大な敗北を「タイパ」や「コスパ」を重んじる意識高い系勝ち組は鼻で笑うのだろう。本書で著者は西洋文明の模倣に明け暮れる日本人たちを憂いているが、現代は当時以上に嫌な時代になっている。今こそ茶道を始めたい。2025/04/28
クナコ
11
初読。明治期にボストン美術館の仕事をしていた著者が英文で日本文化(主に茶道)を紹介した本を、逆輸入的に日本語訳した本。茶道の歴史の紹介本かと思ったが、日本文化についての観念的なエッセイのような内容だった。茶の楽しみ方や、茶道の歴史・心得についてよりも、後半の「芸術鑑賞」「花」の文章の方が興味深くのめり込んで読めた。時折お手本にしたいくらい美しい文章があり、いくつかメモに残した。終わりの訳者解説を読み、著者への幾らかの幻滅とともに当時の欧米文化の流入や模倣状況などについて考えさせられた。英文は読んでいない。2023/12/22