出版社内容情報
【内容紹介】
漱石文学の原点は西洋美術との出会いにあった。ミレイ、ロートレック、ビアズリーなど、ヨーロッパの世紀末芸術との相互交渉によって形づくられ、東洋美術の神髄に覚醒していった漱石。ロンドン留学の体験を偉大なる教訓にして人生を考え、洞察し、自己を完結し東洋への回帰を図った近代人漱石。その生き様と世界を、西洋絵画との邂逅を通して明治の精神史の中にみごとに浮き彫りにした注目の書。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ラウリスタ~
14
ロンドンに留学した漱石が、いつどこで誰の絵を見て、それとどのように対決していったかという記録。『三四郎』とか『吾輩は猫である』とかも、西洋美術を受容し、批判した結果として生まれたもののようだ。裸体画の不道徳さをいう漱石の思わぬ前時代性や、キリスト教を鼻から受容する気がない様など、明治のエリートが借り物の文明を、養子の立場で、それでも図太い神経で貪った様が窺える。2016/01/05
MASA123
9
本書を、一言でまとめると、漱石は、英国文学の研究のために留学したが、日本文学が劣っていないことを認識し、西洋文学はそこそこにして、絵画のほうを研究して帰国した、ということかな。漱石は、ヨーロッパで流行のアールヌーボー調の美しい装丁の本を日本でも発行し、日本の出版界を近代化した。同時期に西洋絵画を勉強しにいった画家は、西洋絵画を日本に持ち帰って、洋画が隆盛になった。もし、漱石が英国文学に傾倒していたら、日本の小説は西洋化の道を進んだのかな(進まないだろうね)。 2024/07/22