出版社内容情報
【内容紹介】
湖人は生涯をかけて『論語』に学んだ。二千年以上も経た『論語』の章句を自由自在に使って、『論語』で養われた自分の思想を物語に構成したものが本書で、『論語』の精神を後世に伝えたい一念が結晶している。孔子と弟子たちが古い衣をぬぎすて、現代に躍り出す。その光景がみずみずしい現代語でたんねんに描かれている。孔子はすぐれた教育者であった。教育乱脈の今日の日本にとって、本書は万人必読の書である。(永杉喜輔氏「まえがき」より)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
125
『論語』の内容を作者が小説化したもの。孔子と弟子たちのやり取りを通して、人間がより良く生きるために最も必要なことは何かということが論じられる。瑞々しい文体に心が洗われ、人間的な温かみにあふれていて、これまで読んだ日本人作家による小説の中で最も好きな一冊。弟子たちの中には子路のように自己顕示欲の強い人物もいる。当然孔子に叱れるのだが、その叱り方は愛情に基づくもので、子路もそれに気付く。孔子は愛の人でもあった。隠棲しないで、普通の人たち共に苦しみ続けたいという孔子の言葉に、体が震えるぐらいの感動を覚えた。2018/05/26
future4227
75
なんとなくわかったようなわからないような…。私利私欲を捨て、何事にも動じず、なすべきことをコツコツ実行することが大切ってことかな。弟子たちが事あるごとに孔子に説教をくらっている中で、様々な含蓄のある言葉が吐き出されるいわば説教集。その度に弟子たちがヘコんでいるのがなんとも微笑ましい。漢文の和訳的な文章ではなく、下村湖人なりの解釈と文体で口語体のショートストーリー仕立てになっているので読みやすい。身内の悪事をバラすのと隠すのとではどちらが正直な人間なのか、という葉公との議論で孔子の考えはちょっと意外だった。2021/04/11
Kawai Hideki
55
とある勉強会にて、「論語を読み始めたがよくわからん」とつぶやいたところご紹介いただいた。下村湖人が論語の中から数話ずつピックアップして再構成し、孔子と弟子たちが、不遇を囲い弱い心に負けそうになりつつも、真理を極めんと日々切磋琢磨する様子を活き活きと描いた本。「なんでこんな話がわざわざ論語に書かれているのか」という疑問に、それはこういう意味があったのだ、と優しく噛み砕いてくれる。「道を道として楽しむ」のはフロー体験と通ずるなあと思ったり、孔子の音楽論は人生論でもあったのか、という発見があった。ご紹介に感謝。2014/03/24
うえぽん
42
下村湖人による昭和13年の作品。論語そのものの注釈ではなく、その言葉から個々の物語に仕立て直したもの。10頁ほどの各章が、まるでショート動画を観ているような気にさせる展開。行間を言葉豊かに埋める技術によって、逐語訳よりよほど読み易い。心に響いた言葉の中に「剛いというのは、人に克つことではなくて、己に克つことじゃ」「君らがわしに学ぼうとするなら、わしの生活を見ればいい」「自分は自分の言葉を、残らず実践によって証明してきたのだ」がある。AI時代の今、言葉は人のものであるかも自明でないが、行動を偽るのは難しい。2024/03/15
けやき
35
「論語」の思想と孔子の生涯を物語風に書いたもの。面白く読んだ。2024/07/11