出版社内容情報
【内容紹介】
「伊勢」は、時世が藤原北家の権力確立に流動している中で没落して行く貴族の一人の男が、誇高く男の純情を歌った愛の歌物語である。地域的にも対人的にも彼は多面的行動的である。情(こころ)は繊細で悲哀にみちていても、待ち耐え忍ぶ女の想(おもい)とは異質である。又彼は造形された人物でなく実在のきらめく歌人である。が、顔や肉体や生活を持たない。虚実の間に形像から開放され抽象されている。「伊勢」が愛好されるのはこの辺に秘密があるようである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
34
中古の時代の文章研究のため読了。下巻へ。2016/05/03
シュラフ
25
わたしは『源氏物語』よりも、この『伊勢物語』のほうが好きである。この『伊勢物語』は、「物語」というわりにはまったく「物語」になっておらず、はじめはあまりの淡泊な筋書きに拍子抜けしてしまう。だがそれが故に、読み手のイマジネーションを高めて、かつ歌のインパクトを高める、という効果となっている。「いへばえにいはねば胸にさわがれて心ひとつに歎くころかな」。女に対するせつない胸の気持ち、男であれば誰しも経験があることだろう。いちいち余計な状況設定などしてないからこそ、我が身の想いとして感情移入ができるのだ。 2017/11/01
ドウ
6
言わずと知れた、在原業平を想起させる男を主人公とした歌物語。上巻で早速「東下り」や「筒井筒」といった、かつて高校古文の教科書で触れた段がいくつも出てきて懐かしい。思いの外主人公像が定まっておらず、誰にでも優しい教養ある男性、という位に緩くしか共通項を括れない。やはり一貫性のある主人公とストーリーという点においては『源氏』の登場を待つことになるのだろうか。註釈も段ごとの主人公像のブレや完成度の高低にけっこう字数を割いている。それ以外の点についても註は丁寧で、辞書を引かずとも正確に読解できる(と思います)。2020/03/03
けろ
4
原文、現代語訳、補説を読む。7年前にも読んだようだが、その時は原文は読まなかった。2025/03/03
うぴー
3
周知のとおり主に恋愛を題材とする歌物語であるが、数多くある和歌の中でも、好みの女性には直接的な表現も厭わず用い、一方で好みでない女性に対しては婉曲的に拒絶しているところに面白味を感じた。とはいえ、都から離れても恋愛、勅使の務めの中でも恋愛といった様子で、風景を詠んだかと思えば掛詞として恋心を託しているなど恋愛一辺倒であり、通読すると食傷気味になる。2022/05/19