出版社内容情報
【内容紹介】
近代西欧文明は、〈力〉を原理とし、科学技術を武器として世界を制覇した。しかし、20世紀に入り、とくに原水爆の出現いらい、〈力〉の文明は明らかにゆきづまりを見せている。これからの新しい文明創造の原理をどこに認めたらいいのか。著者はそれを日本の精神的文化遺産である仏教思想の中にみ、科学技術偏重の明治以来の教育を批判し、仏教精神を教育にとり入れることを説く。常に新しい思想を展開させる著者の創造的日本文化論。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モリー
76
再読。初版は、なんと私が4才の時に発行されていました。初読みは大学に入学したばかりの頃だったと思います。当時、梅原先生の文明論に強く惹かれたことを思い出しました。先生の文明論は時を経て増々、輝きを増しているように私には感じられました。以下、引用。「怒りの文明、力の文明というのはヨーロッパ文明の大きな特色で、東洋文明の方は安らぎの文明、あるいは慈悲の文明という特色をもっていると思うのです。そして、ヨーロッパの文明、力の文明というものは、どうやら時代遅れになってきているように思うのです。(↓コメント欄に続く)2021/04/20
蛇の婿
19
平易な文章で実に面白い。ヨーロッパ文明は世界を席巻したけどそろそろ衰退の兆しが見え始めたのでココは一発日本が頑張って新しい文明を示そう。今教育で重視されてるのは英語と数学だけどこれはヨーロッパ文明を受け入れる為の人材の育成に重点が置かれているからで、そんなものよりこれからはその為に国語や仏教とか教えようぜ、が骨子。…言われて見れば仏教に限らず、現在の教育は宗教は避けて通るからドイツ『第3帝国』がなんで『第3』なのか普通の人は知らないよなぁ、とか思いつつ読了。薄くてさくっと短い時間で読めるのも素晴らしいww2016/02/06
Tomoichi
18
昭和43年に富山県の教職員への講演を元に書かれた日本文化論。この薄さで定価440円はどうかと思いますが、内容は深く、<力>を原理とした「西洋の没落」後の世界で日本はどう進むべきかを仏教思想に求める。しかし五十年後の今は本当のライシテすら理解していないなんちゃって政教分離主義者や唯物論者により遠足ですら神社仏閣に行かなくなってしまっている。世間や世界を知らない連中が学校に子供を人質に籠城しているんだから絶望だね。。。2017/05/04
みのくま
10
本書は昭和43年の梅原猛の講演で、内容は主に日本の学校教育についてだがある種の文明論になっており大変興味深い。明治維新により欧米化した日本の教育だが日本的なるものを捨象してしまった。日本的なるものは古代日本の神道だけではなく仏教的叡智が重要であるとする。面白いのは、古典といっても鴨長明や吉田兼好のようなニヒリズム的文学ではなく、親鸞や道元、日蓮といった類稀な情熱を持っていた仏教徒の著作こそ大切だとする点だ。キリスト教進歩史観ではなく人類の業に直面しつつ如何にそれを回避するか模索する態度こそ学ぶべきだとする2024/12/07
色々甚平
8
教員向けの講義をまとめたもの。著者が仏教に熱中していた頃のものと言っていただけある内容になっている。ヨーロッパは物質主義すぎて精神文明が欠けていると述べた後に、日本は西欧技術を取り入れて、ヨーロッパ以上にヨーロッパ的になったと書いているのは皮肉として笑えた。仏教思想が根付いている生活で、そのことを知らない、知ろうとしないのは文化の形骸化に繋がる。だから、仏教の経典などを読む教育が必要だと説く。1から10まで納得できる内容ではなかったが、自分の受けた戦前戦中教育の体験を混じえた章は良かった。2019/04/27