内容説明
なぜ今、終末論なのか。なぜ「イスラームが解決」なのか。学術書からヒットソングまで渉猟し、苦難の歴史を見直しながら描く「アラブ世界」の現在。
目次
序 アラブ社会の現在(狭まる世界認識;悪化する世相)
第1部 アラブの苦境(「一九六七」の衝撃―社会思想の分極化;「人民闘争」論の隆盛;パレスチナへの視線 ほか)
第2部 高まる終末意識(終末論の流行;セム的一神教と終末論;『コーラン』の終末論 ほか)
著者等紹介
池内恵[イケウチサトシ]
1973年、東京生まれ。1996年、東京大学文学部イスラム学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程を経て、2001年4月よりアジア経済研究所研究員。イスラーム政治思想史、中東地域研究が専門
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ラウリスタ~
14
なんと16年前に読んでいた。冒頭でショッキングなエジプトの世紀末的状況の説明から始まり、陰謀論、終末思想がサブカルとかオカルトではなく、普通の社会思想となってしまっている絶望的な状況が説明される。20代で出した博論直後に911があり、その三か月後に出版された本。重要なのは1967年までは社会主義革命が目指されていたがイスラエルに完敗したことでそれが頓挫、代わりに70年代からはイスラム主義が現在の困難を終末の到来として説明していくようになる。パレスチナはかつては左翼の国際的連帯(日本赤軍)の象徴。2025/03/19
モリータ
12
第1部「アラブの苦境」は基礎の勉強になった。第2部「高まる終末意識」を読んで、終末論や陰謀史観など現代では極端と思われる宗教的内容がイスラム教徒にどの程度信じられているのかということが気になった。過激でオカルト的なものを信じる人はキリスト教徒その他にも一定数いるだろうが、それよりも広く受け入れられているのか。それは、奴隷制とか異教徒排除の思想(他者への配慮)が正統的な教えに基づいているとされるときに、どの程度間に受ける人がいるのだろうかという部分とも関わる。2015/01/26
無重力蜜柑
10
「現代アラブ」とついてはいるが、古い本なのもあって主に20世紀後半のアラブ世界の社会思想の本。第三次中東戦争の敗北による挫折感から「真っ当」な近代化路線を放棄し、マルクス主義による人民革命戦術、イスラーム主義を経て、辿り着いたのは暴力的原理主義×排外主義×終末論×陰謀史観×オカルトというごった煮な思想体系。湾岸戦争や米軍の駐留、9.11までをCIA=ユダヤ=フリーメイソンの陰謀と結びつけ、偽救世主や終末の獣といった『コーラン』『ハディース』内の象徴で読み解いてしまう。閉塞感という言葉があまりに相応しい。2022/05/04
CCC
8
いかにアラブ世界で陰謀論と終末論が受容されているかという一冊。けれど、タイトルは現代アラブの社会思想なわけですが、これがアラブの社会思想だーと言っちゃっていいんでしょうか。エジプト近辺のアラブ界の思考の核と言えば、陰謀論と終末論なんだという事なんでしょうか? うーむ……。2016/07/26
可兒
8
現代のアラブでできあがってきた思想の歴史をひもとく。植民地支配の反動として生まれた社会主義、民族主義、イスラーム主義の勃興から、現代それも現実におけるイスラーム的終末論での適応まで、興味深い記述がかなり。まあ同時多発テロ直後のタケノコ本である点を警戒する必要はあるかもしれないが、多分この人の見識は確か2011/09/21