内容説明
戦中、戦後そして現在。戦争の傷跡を写した3枚の写真が、60年の歳月をつなぐ…その新しい歴史観が共感を呼び、全英ベストセラーとなったブッカー賞最終候補作。
著者等紹介
シーファー,レイチェル[シーファー,レイチェル][Seiffert,Rachel]
1971年にオーストラリア人の父、ドイツ人の母のあいだに生まれる。オックスフォードとグラスゴーで育った。母親の国籍から、幼少期には「ナチ」と呼ばれたこともあり、その経験が本書をうむきっかけともなった。2001年、『暗闇のなかで』で作家デビュー。『タイム』、『サンデー・エクスプレス』など書評子から高い評価を受けて2001年ブッカー賞の最終候補作となった
高瀬素子[タカセモトコ]
東京大学文学部英文科卒業
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感想・レビュー
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miyu
48
ホロコーストの側面を加害者側から捉えた作品をそれほど知らない。数多存在したとしても責めを受けるべき立場からの物語は印象が薄いし共感を得にくいのだろう。特に繋がりのない3篇だが各々の主人公の夫々の彷徨が淡々と描かれ不思議な一貫性を感じる。強い感情を交えずにただ流れる事実だけを追う筆致に心動かされた。そこに紛れもなく人の生きた証があるからだ。誰もが持つ無知と悔い。知りたくないことから目を背け、知りたくないと自覚することさえやめてしまう。それは私自身なのかもしれない。知ってしまってから新たな苦しみがまた始まる。2017/07/13
キムチ
45
歳を重ねるほどに己の無知を痛感、新たな1冊に出会えた感激が。ナチスの負の遺産~独逸はホロコーストを永久に語り継ぐ義務を持っていると思っている。ドイツ人の母を持つ筆者が語るこの作品は3部構成。20世紀初、中、後期と時をリレーし、様々な立場の老若男女に言葉を吐かせる~キーワードは写真。武装ssを祖父に持つ若き教師シーファ。彼の心象風景が最も熱く、筆者を投影している感が強い。あの事件の現場・・訪れ対峙したその時間。彼彼女たちが覚えていて涙して。。ナチの加害者被害者は生を紡いでいる。読み進むのが息苦しいほどだった2017/08/06
星落秋風五丈原
42
本編は三章から成り、三人の登場人物を通して戦中、戦後、現在のドイツが描かれる。第三章のミヒャは亡き祖父がナチス党員だった事を知り動揺。作者の想いが最も投入されたキャラクターだ。写真は嘘をつかない。事実だけを掬い取る。誰かの優しい父、優しい息子が、国の命令とあれば、残虐な行為もやってのける。ドイツだけでなく、日本でもそうだった。過去をなかったことにしようとする人たちにとっては、写真は厄介な存在だ。しかし、過去を見つめ直して生きていこうとする人たちにとっては、写真は光となって手掛かりを照らす。 2018/07/11
キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
36
第二次世界大戦中のドイツ。その時、虐殺を目撃した市民、敗戦後父と母が逮捕された少女、戦後何十年も経ち死んだ祖父が虐殺に加わってきた疑惑で身動きさえ取れなくなるくらいショックを受ける青年教師の三作の作品集。銃後のドイツの生活。子供だけで戦後の混乱にに投げ出されることの困難。身内に殺人者、それも極めて残虐な方法で何人も人を亡き者にした殺人者がいた事にゾッとする怒り。写真が物語の小道具であるが、混乱の中一枚の写真が命綱である時もあるのだなあ。キリングフィールドも思い出した。2017/08/16
くさてる
19
ナチスという歴史を背負ったドイツの人々の物語が三篇収録されている。冒頭の「ヘルムート」。障害を持ったベルリンの青年が写真と出会いのめりこんでいく様と、けしてきれいごとでない彼の性癖のようなものがラストの一枚に結晶するのがみごと。「ローレ」は幼い子供たちが戦乱の中を必死に避難するさまに現在のウクライナが重なった、と思ったら、続く「ミヒャ」はまさにそのウクライナで起きたことがテーマだった。現代の視点が入り込む余地がない「ヘルムート」の純粋性がいちばん印象に残ったのは良かった。2022/05/21