内容説明
「条件さえ整えば、地球上のすべての人間がよろこんで悪をなす」悪霊に取り憑かれた旅人が、山間の平和な田舎町ヴィスコスを訪れた。この恐るべき考えを試そうと。町で最初に旅人と知り合いになったのは、ホテルのバーで働くプリン嬢。田舎町の毎日にすっかり退屈していた彼女こそ、旅人の計画にどうしても必要な人物だった―。
著者等紹介
コエーリョ,パウロ[コエーリョ,パウロ][Coelho,Paulo]
1947年ブラジル、リオデジャネイロ生まれ。世界中を旅した後に音楽とジャーナリズムの世界に入る。1987年、初の著書『星の巡礼』(角川文庫)を発表して注目を集め、88年に刊行した『アルケミスト』(角川文庫)が世界中で大ベストセラーになる。現在は世界を旅しながら精力的に執筆活動を続けている
旦敬介[ダンケイスケ]
1959年生まれ。東京大学教養学科卒業。ラテンアメリカ文学専攻。現在、明治大学講師
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tosca
27
はしがきに、本作は「ピエドラ川のほとりで私は泣いた」と「ベロニカは死ぬことにした」に続く三部作の完結と記されていたので、やらかしてしまったかと思ったが、独立した話なので前2作を未読でも問題無いと分かって安心して読み始めた。「善と悪」という重いテーマだが、プリン嬢は悪魔の持ちかけた話に乗るのかどうかという結論が知りたくてどんどん読み進めた感じ。人間には善悪両面が備わっているした逸話の中で、レオナルド・ダ・ビンチの話が面白かった。2022/07/26
テツ
16
性善説と性悪説。人間の本質が予めどちらかに決まっているのなら、生きることと他者と交わることが今と比べてどれほど楽になるだろうか。全ての人は悩み苦しみ誘惑に翻弄されて善と悪との間を揺蕩う。そうした在り方の内に自分自身も置かれていると自覚し、なるべくなるべく悪に陥らないように、ギリギリのところで踏み留まるための自分だけの護符のような大切な何かを心の奥底に常に抱いておきたいなと思う。寓話的な物語を読み進める内に押しつけがましくなく気づきを与えてくれる。久々に読みましたが善側に自分を保っていたいなと感じる。2021/09/01
さぼさん
4
主題は人間の中に存在する“善”と“悪”.そんな深い主題を面白い設定とストーリーで一気に読ませる.人間の普遍的な魂の在り方を巧みに描いている傑作.2010/05/25
ふくさん
2
ひとは性善か性悪かこの古典的命題に真っ向から挑んだ小説。舞台設定や登場人物が絶妙で一気に読ませます。宗教やその教義、救済も含め人間存在の根底を問う物語を平易な語り口で提示します。もっと読まれてよい名作です。◎2014/11/19
AD238
2
「良き者などいない。たった一人の神のほかには」冒頭の一節が示す様に、異邦人、聖歌隊の少年、神父、魔女、主人公。そして讃えられる聖人にすら、魂における善と悪の葛藤があり、ただそこに加わる賽の一振りによって、我々は天使にも悪魔にも成り得るのだ、と。一見する牧歌的な楽園からの、主人公の失楽園を通じ、この物語は語られる。提示される悪に心乱され揺れる人々。抗いの果て善に目覚める主人公。悪を証明する筈が、結果解き放たれてしまった異邦人。「一人の物語は、人類の物語」人物のそれぞれの葛藤は、我々の日常と何かしら重なる筈。2014/06/08