内容説明
医学的に脳死と診断されながら、月明かりの夜に限り、特殊な装置を使って言葉を話すことのできる少女・葉月。生きることも死ぬこともできない、残酷すぎる運命に囚われた彼女が望んだのは、自らの臓器を、移植を必要としている人々に分け与えることだった―。透明感あふれる筆致で生と死の狭間を描いた、ファンタジックな寓話ミステリ。第二十二回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
著者等紹介
初野晴[ハツノセイ]
1973年静岡県出身。法政大学工学部卒。2001年に『しびとのうた』が横溝正史ミステリ大賞最終候補作となる。2002年には、『水の時計』で第二十二回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。ファンタジックな世界観とロジカルなトリックが魅力のミステリ作品を生み出している
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感想・レビュー
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優愛
171
現代版の幸福の王子。さしずめ身体の一部分を分け与えるのは葉月、そしてその懇願を受ける運び役のツバメは昴。自己犠牲を通して見る生と死の作者の考える考察が胸を打ちます。月明かりが優しい夜、生と死に意味を問い続ける事にさえ意味があるのか時に私達は分からなくなる。答えのない道で迷ってしまった子供のように泣き出したい衝動に駆られる時が確かにあるのだ。それでも孤独を知り、挫折に悔いながら結末に至った二人がいたことを知っただけでその意味を知った様な気にさえなれた。ようやく触れられたのだ。その心情に物語が終わる今やっと。2015/03/07
ダイ@2019.11.2~一時休止
124
デビュー作。臓器移植がメインテーマでウルッて来る所もある。ミステリー大賞なのにミステリー色が弱いような気もする。2015/09/23
財布にジャック
118
ページをめくって直ぐに大好きな「幸福の王子」が出てきた時点でドキドキしました。なんだかちょっと読みにくい部分もありましたが、ストーリーは斬新で、あの「退出ゲーム」と同じ作家さんとは思えませんでした。命について考えさせられる作品で、主人公も不良少年だし、明るいお話ではないんですが、現代版「幸福の王子」が良く書けていると思いました。それにしても、オスカー・ワイルドの「幸福の王子」が又読みたくなりました。2010/11/22
テンちゃん
110
少女・葉月⇨脳死!o(>_<)o診断!⇨『特殊な装置』(⊙.⊙)月明かりの夜!d=(´▽`)=b『言葉を話す事ができる』⇨『生きる事もできない!』o(>_<)o『死ぬ事もできない!』⇨残酷!゚゚(´O`)°゜゚運命!ヾ(。`Д´。)囚われの身!⇨『葉月の決断!』(﹡ˆ﹀ˆ﹡)『自らの臓器を必要としている人へ分け与える!』⇨葉月との約束!(; ̄^ ̄)高村昴!⇨『願いを叶える!』。°(°`ω´ °)°。運ぶ昴の想い!⇨『残された者の辛さ!』考えさせる一冊!生と死!傑作作品。☆(⊙.⊙)4.52016/01/01
アイゼナハ@灯れ松明の火
107
「幸福の王子」って、こんなも悲しくて辛い話だったんだなぁと改めて。死に向かう時計が止まり、月の差し込む夜だけ話をすることができる少女の願いは、自らの臓器を他人に分かち与え、この世に生きた証を立てること。ツバメに代わって宝石を運ぶ少年の願いは・・・変わり果てていく王子の姿を、ツバメがどんな思いで眺めていたかなんて、今まで考えてもみなかった。想い出の中で人は不死になる。それが彼女の本当の願いであったとしたら、物語の結末を変えたのはきっと、その哀しいけれど真摯な願いの力なのかも知れない。2010/11/08