内容説明
「今年で120歳」というおねえさんと出逢ったタカシは、彼女に連れられ、遠く離れた南の島で暮らすことになる。多様な声と土地の呪力にみちびかれた、めくるめく魔術的世界。
著者等紹介
恒川光太郎[ツネカワコウタロウ]
1973年東京都生まれ。大東文化大学卒。2005年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞。単行本はデビュー作にして直木賞候補になった。続く『雷の季節の終わりに』と『草祭』は山本周五郎賞候補、『秋の牢獄』は吉川英治文学新人賞候補作と、新作を出すごとに注目を集める気鋭の作家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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みっちゃん
149
生まれては懸命に生き、土に還る人々。鷹揚で、でも時には残酷さを露にし、油断ならない神々。両者がとても近しい、それが自然な異国の南の小島。どの物語も身体の奥深くに染み渡り、潤いをもたらすようだ。作中の「オン」はやはりあの「隠」か。1つ1つの物語が繋がり、巡り巡って最終話が第1話のアンサーになるのも趣深し。ここに暮らすと心がゆったり大きくなれるか。雪深い北の地から思いを馳せる。2014/12/18
文庫フリーク@灯れ松明の火
144
恒川ワールドが和の異世界から洋の異世界へ。お箸の国の日本人が、一般的に思い描く海外の南の島は、有りそうでいて無い異世界トロンバス島。色彩鮮やかに実る果実は甘味・苦み・酸味と味もさまざま。口にすれば幻覚招き、時空さえ飛び越えかねない果実も。《注意して召し上がれ》の短編7編。日本の少年タカシと呪術師ユナ中心に織り成す不思議な異世界。これまで読んだ恒川さんに比べ、悪意や苦みの強い異世界ホラーの感じ受けました。『まどろみのティユルさん』『紫焔樹の島』と、苦みの強い『蛸漁師』『夜の果樹園』がお気に入りです。2011/08/10
エンブレムT
144
沖に流されているのか陸に引き寄せられているのか・・・現在地すらもわからないまま南洋の波間をたゆたっている、そんな不思議な感じのする連作短編集でした。恒川作品の特色の一つである『閉じ込められていくような閉塞感や湿度の高さ』は薄めです。南の島特有のカラリとした空気、語り部の一人・少年タカシの子供らしい柔軟さ、もう一人の語り部・呪術師ユナの独特な存在感が、どこか遠い国の伝承を読んでいるような雰囲気を醸しだしていました。極彩色のホラーファンタジーなんて、はじめて・・・。今作も、深いタメ息と共に本を閉じました。2011/07/13
sk4
140
うーむ、こりゃあ傑作だね~。今まで私が読んだ恒川作品に比べて時間の奥行きが大きくとられていて、更に幻界の深さが増しています。 年齢100歳を遥かに超えのうら若き呪術師ユナが物語の軸になって、南の島々の不思議なファンタジーが綴られる。 最終話の『夜の果樹園』はまさに荒唐無稽。バカバカしいと本を投げる人もいるだろうと思われるほどの。夢なのか幻なのか、それとも現実なのか。とにかく父は会いにくる。ユナに導かれて。2012/11/18
ミナコ@灯れ松明の火
114
現実と幻想の境目がとても曖昧な、不思議な心地よさを伴った物語だった。過剰過ぎないふわふわ感と、リアルな悪意のバランスがとてもよい。霞がかっているような世界観なのに浮かび上がる風景は極彩色の南の島。子供のころ読んでもらっていた絵本の続きを待つ、わくわくした気分でページを捲る手が止められなかった。目を開けて見る夢、ここにあり。見事な恒川文学、次に読む本ではどんな景色が見られるのか楽しみ。2011/09/22