内容説明
過酷な自然、のしかかる重い疲労。死線をさまよい続ける極限状態にあって、人間が人間らしくあることは可能なのか。第二次世界大戦時のニューギニアで、前線と後方をつなぐ兵站線から、名も無き兵隊たちのドラマを描く、小説の極致。
著者等紹介
古処誠二[コドコロセイジ]
1970年福岡県生まれ。2000年『UNKNOWN』でメフィスト賞を受賞し、デビュー。ストイックで寡黙な語り口のなかに、人間の業を描き出し、新世代の戦争文学を担う(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
クリママ
43
9編の短編集。すべて第二次世界大戦時のパプアニューギニア。戦う相手は豪兵だが、戦闘よりも、マラリア、飢餓、疲弊など傷病兵のこと。淡々とした筆致ながら、彼らの状況、心情が迫ってくる。先に小松 真一著「虜人日記 」で戦争の実録を読んだばかりだが、古処作品はフィクションであるのに違和感がない。戦死者○○名という数字ではなく、彼らが私と何ら変わることのない一人の人間であることがひしひしと感じられる。この作品集の中では異色の徴用馬の話が悲しかった。また、超人のように現れる台湾兵、高砂義勇隊のことを知りたいと思った。2024/08/27
ゆう
7
声高に戦争反対を叫ぶでなく悲惨さを強調することもなく、それでも淡々とした語り口の中から残酷さが伝わってくる。デビュー作がメフィスト賞だったのが嘘みたい。2010/01/13
ゆっしーな
6
「誰もがいまだに生きている自分を恨んでいた」。淡々と綴られる戦争の姿には、心を動かすことさえ憚られる。張り詰められた細い細い線の緊張感に、できる限り心を平らかにしてページを繰った。でないと崩れてしまうと思った。2014/01/13
たこやき
6
ニューギニアを舞台とした短編集。それぞれのエピソードに特に関連性はないのだが、しかし、時系列に並び、冒頭の、まだ余裕があったころの『下士官』『糊塗』から危うい線の上を歩む日本軍の姿が描かれる。そして、戦況の悪化と共に現れる様々な「線」。短編集ではあるが、ニューギニア戦という一つの戦場を描いた長編のような印象が残った。2010/06/17
etoman
4
太平洋戦争のパプアニューギニアを舞台にした短編集なのだが、時系列に沿って描いているので、だんだん、話が酷くなっていく。作者の感情がこもらない風景描写。そしてある種達観している各短編の主人公達。究極の状況をサラッと書いているが、読み進めていくと心の中にズシリと重いものが残っていく。古処誠二は、すっごく久しぶりに読んだのだが、余計なものがこそぎ落された文体に作者が戦争と向き合ってきた歴史を感じた。おススメ。2009/11/23