内容説明
なんの前触れもなく人間が消滅し、その痕跡も、周囲の人々の記憶からも消え去ってしまう現象が頻発している世界。そこでは、いつの間にかクラスメイトが減っていき、葬式や遺書は存在せず、ビートルズが二人しかいないのが当たり前だった。そんな世界でぼくは例外的に消えた人間の記憶を保持することができた。そしてぼくは気がつく。人が消えていくばかりの世界の中、いなかったはずの女の子がいつのまにかクラスの一員として溶け込んでいることに―。
著者等紹介
杉井光[スギイヒカル]
1978年、東京都稲城市に生まれる。高校卒業後、雀荘勤務のかたわら音楽活動を続けていたが、バンド解散をきっかけに小説執筆を始め、2005年、『火目の巫女』で電撃小説大賞「銀賞」を受賞。以降、幅広いジャンルの作品を発表し続けている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優愛
38
人が消えていく世界で。記憶さえ残っていないことを知らないまま生きていくのはきっと悲しいほど簡単。でも残っていると知りながら生きていくならそれは痛みでしかないんだろうな。世界は音もないような、ただそこにあるだけの箱のように感じられた。そんな中で映えるのは今にも消えてしまいそうな切ない愛の物語。もう一度、再読したいと思います。2013/12/22
メロリン@5月は再読強化キャンペーン!
37
初読の時に、冬の雪の降った日に再読をしようと思っていてようやく再読出来ました。ある意味で杉井作品の集大成ともいえる作品だと思います。表紙も素晴らしいし、内容も杉井作品の真骨頂ともいえる世界観だと思います。相変わらずマコをナオに、奈月を真冬に置き換えて読んでしまいましたが、杉井作品の最高傑作ともいえる「さよならピアノソナタ」に足りない部分を補足して補える感じに仕上がっているので、ピアノソナタの世界観が好きな人なら楽しめる作品だと思います。2014/02/14
くろり - しろくろりちよ
35
人が消えていく世界。「死」という概念はなく、死体も残らないし媒体からも消滅する、人の記憶にする残らない。そんな世界でただ一人、消えた人の記憶を持つマコ。古い白黒カメラで写した者だけを憶えている。そんな人が消えていくばかりの世界で、ある日表れた菜月。記憶にない人。けれどもマコの感情を引き出すたった一人の人。大切な人。忘れることが幸せか、それとも…。静かに終わって行く世界。「世界の終わり」がこんなのもありかなって。2012/04/15
秋製
32
ある時から人が死ぬと、その遺体だけではなく持ち物、あらゆる媒体記録、その人に関する記憶。それらが全て消えてしまうようになってしまった世界。そんな世界に住む、一人の少年の視点で書かれた話です。彼だけは、何故か消えてしまった人たちの記憶を失いません。それは何故なのか?彼が自力でたどり着いた答えは今一納得できないような、したくないような・・・。読んでいて死んだら存在自体が消されつじつまが勝手にあわされていく世界で、海賊放送のDJサトシの最後の台詞が印象的でした。2012/12/19
Romi@いつも心に太陽を!
27
雪の表紙がぴったりなイメージ。美しい文体の物語でした。原因不明の、人が消えてその人に関する記憶も失われる現象。ただ一人、主人公の少年だけは彼らの記憶を現像しファイリングすることで、忘れることなく「消えた事実」を認識していた。忘れることは幸せなのか。失い続けてもそれに気付かず書き換えられた世界を生きていくなんて、ゾッとする。どんなに辛くても、今まで生きてきた軌跡である記憶、思い出を失うなんて耐えられない。海を目指すとことか「塩の街」を彷彿とさせる作品でした。2011/03/10