内容説明
「墨」は作られた日から微妙に変化をつづけ、硯、水、紙との組み合わせで神秘的なまでに墨色を変えていく。実用品としての墨は三十年から五十年で最も冴えた墨色を示し、百年で鑑賞、愛玩用へと役目を変える。一方、紙にえがかれた墨の色は、千年たっても亡びることがない。こうした複雑な墨の特性を平易に説き、手作業による墨作りの様子や、著者愛用、愛玩の名墨の数々を紹介。軽妙な語りで「墨」の魅力を余すところなく伝える。
目次
墨の妖気
奈良を歩く
墨の起源
名墨について
墨の生成
油煙墨の艶
松煙墨の冴え
未来派アンソラセン
朱墨
あの墨この墨鑑賞〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
りー
10
藤森照信さんのお薦め本。文房四宝=墨・筆・硯・紙について書かれたシリーズ、まずは、墨から。筆者は書家。墨には妖気があるといいます。墨は、煤と膠から成る。煤には松など植物性の煤、菜種など油からとる煤、石油からとる煤、などがあり、それぞれ個性や質が違う。墨の書は殷代まで遡り、唐には熟していた・・・その妖気にあてられた文人たちの滑稽なほどの執着が語られます。筆者のコレクション写真も惜しげなく公開され、小宇宙に感嘆。作り手の過酷な作業が詳細に記され、墨を拝したくなることうけ合い。書画を見る目が変わりました。2020/03/01
ラグ
1
堅苦しさのない読み易い文体で、硯の奥が深い世界を知ることができる。呼び名も、産石や材質、形や紋様によって本当に様々。色にしても、紫系統・黒っぽい・緑や青・茶系統など、画像を検索しては美しさに見入ってしまう。日本国内にも、雨畑(山梨)龍渓(長野)赤間(山口)玄昌(宮城)高島(滋賀)蒼龍(高知)などといった名硯・名石があることを知る。読めば硯にどんどん心惹かれ、集めたくなってしまう。2024/09/08