出版社内容情報
「マイルスの前にパーカーがいたように、ドラクロワの前にはジェリコーがいた。時代を切り拓いた兄貴分的な天才の過剰な生と創造。日本で今、こんな漫画が読めるとは!と瞠目。」平野啓一郎
近代美術の先駆者と目される画家の半生を新進気鋭の漫画家が描く!
<あらすじ>
1816年、フリゲート艦“メデューズ号”がモーリタニア沖で座礁する。急ごしらえの救命ボートの筏は150名近くを乗せ13日間漂流したあげく他の船によって発見されたが、生存者はわずか15名にすぎなかった。時のフランス復古王政政府はこの事件をひた隠しにしたが、漂流期間中、筏の上では殺人、食人を含む様々な非人間的行為が行われたことが明るみに出てしまう。ショッキングなこの事件を題材に大作を描きサロンでスキャンダルを巻き起こしたのはテオドール・ジェリコー。彼はいったいこの事件に何を見たのか。「起こったことを精確に描く」ため、死体をアトリエに置き観察するなど常軌を逸した行いに世間は戦慄するが、ジェリコーは人間の本性を暴き出そうとするその真摯なまでの信念に突き動かされていく。19世紀初頭、ロマン主義、印象派などに先駆けて「近代絵画の先駆者」といわれる画家の、人間の本質へと迫る半生を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
クロンショー
3
絵は何のために描かれるのか。宗教画は信仰心を教会に寄せ、肖像画は為政者の権威を高め、歴史画は愛国心を育てる。その多くは美しい色彩と容姿で人々の視線を優しく惹きつける。19世紀初頭のパリに生きたジェリコーが求めたものは違った。聖人も貴族も英雄もそこにはいない。あるのは匂い立つ生と死の実像、生々しい現実。確かな技倆で絶望の中のかすかな希望を描き分ける。世に衝撃を与えた『メデューズ号の筏』を描いた画家は、激動の時代に人間の本質をえぐり出そうとしたかのよう。彼の短く切ない人生を流れるように表す著者の作画は秀逸。2022/11/22
kokekko
2
「メデューズ号の筏」を初めて見たのは世界史Bの資料集だったと思う。その作者については何も知らなかったので、芸術家漫画として楽しく読んだ。絵がとても上手で、画家ジェリコーのことはざっくりわかるが、物語としてのカタルシスを求める人には不向きかもしれない。どことなく学習漫画的な読後感。2022/11/13
福
2
「生とは死の隣人にすぎないこと。そしてそのせめぎ合う境界こそ自分が追い求めた人間の美であることを。」 ジェリコーが病身の友人を「なんて美しいんだ」と思う感性が芸術家そのもの。私が子供の頃にメデュース号の筏を見てからずっと忘れられないのはその不謹慎さではなく「死と生の境界の美しさ」だからなのかもしれない。美は無数に存在する。2022/02/08
カナギ
2
読み終わり直後の感情をどう言語化したらいいのか分からないけどとても良かった。絵画好きにオススメ。何かを狂おしいくらい追い求めて日々を送る人には刺さるんじゃないかと。生と死、狂気を内包した人間の本質。メデューズ号の筏、鑑賞したい。ルーブルまで行かなくちゃならんが。2022/01/11
Motley
1
★★★★★2022/02/27
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- 和書
- 日本の幽霊 中公文庫