内容説明
文豪近松門左衛門が生涯に残した浄瑠璃・歌舞伎約150作から、人生の転機となった5作を取り上げ、その名場面を味わう。平家の一族景清が源頼朝を狙う『出世景清』、遊女おはつと徳兵衛の『曾根崎心中』、外道の法と仏教の争いを背景に男女や親子の愛憎を描く『用明天皇職人鑑』、絵師狩野元信を中心に人間模様が渦巻く『けいせい反魂香』、中国を舞台に明の復興に奔走する人々を描く『国性爺合戦』。江戸のベストセラー揃い。
著者等紹介
近松門左衛門[チカマツモンザエモン]
江戸時代の芝居作者。井原西鶴・松尾芭蕉とともに元禄の三大文豪といわれる。承応2年(1653)~享保9年(1724)。本名は杉森信盛。越前生まれ。はじめ宇治加賀掾のもとで浄瑠璃を書き、ついで、歌舞伎の作に筆を染め、元禄年間を通じ、多くの坂田藤十郎出演作に関わる。その後竹本座に専属作者として迎えられ、筑後掾、政太夫らのために数多くの浄瑠璃を制作した。絶筆は享保9年『関八州繋馬』。作者の氏神と賞される
井上勝志[イノウエカツシ]
1967年生まれ。98年大阪市立大学大学院後期博士課程単位取得退学。現在、園田学園女子大学准教授。近松研究所研究員。博士(日本文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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こーた
112
言葉が人形に命を吹きこむ。近松は読まれるために書いたのではない。演じるために書いたのだ。読むだけでは半分しかわからない。声に出して音を聴き、動きを想像して愉しむ。抑揚、リズム、ステップ、舞い。人形に与えられた命は、それらによって業にまで昇華される。言葉によってたくわえられた心はどこまでも純粋で、ときにもののけに取りこまれてその姿形までもかえてしまう。これほどまでに深い業、余計なものがいろいろとくっついた生身の人間には、とうてい演じられまい。人形だからこそ宿る。言霊(ことだま)とはよくいったものである。2017/12/20
壱萬参仟縁
25
同時代人のなぐさみとなり、演奏されることを前提に書かれた(3頁)。「出世景清(かげきよ)」、「曾根崎心中」、「用明天王職人鑑(かがみ)」、「けいせい反魂香(はんごんこう)」、「国性爺合戦」より成る書。世話物の世話とは世間の噂話。これに対する、時代浄瑠璃(70頁)。「当て込み」とは、世上の話題などを芝居に取り入れること(125頁)。明朝体太字で、たまに音読してみたが、当時のリズムを現代人としてのわたくしも共有できたので、おススメしたい読み方だと思える。意味も現代語で理解できるので助かる書。 2019/01/03
ykshzk(虎猫図案房)
12
角川ソフィア文庫の「ビギナーズ・クラシックス」。これはよく出来ています!文楽を見ても後ろの人形遣いが気になってしまったり、聴く文学である近松門左衛門、を聴いても分からない、という私にはこの本がとても良かった。これを読んで理解してから聴いたほうが、もったいなくない。人物相関図+あらすじ+各場面の現代語訳+浄瑠璃のテキスト、で他の文庫で挫折した「曽根崎心中」もばっちり。「出世景清」をはじめ収録されている五作品は江戸時代のベストセラーということで、どんなトピックが当時の人たちの心を捉えたのかが分かるのも面白い。2020/11/28
いとう・しんご singoito2
10
東アジア史を勉強する中で鄭成功を知り、和藤内という言葉くらいしか知らなかったので、江戸時代の人に恥ずかしい、と国性爺合戦を読もうと思って借りてきました。近松の代表作五本からさらに部分的にダイジェストしてあり、現代語訳と原文を比較して読みました。同時代のスペインもお芝居が盛んでしたが、スペインの、たとえばティルソ・デ・モリーナとかロペ・デ・ベーガに比べると筋立てもグッと複雑、登場人物もたくさん、当時の人びとが良くお話について行ったもんだなぁ、日本人って頭良い?と改めて感心しました。2024/04/17
spica015
7
やはり浄瑠璃は読むものではなく、聴くものであると痛感。原文でも大体の意味は取れるが、詞章に込められた言葉遊びの部分に気付き難く、太夫の朗々とした語りよってこそ得られる情感が掴みづらい。時代物も良いけれど、近松はやっぱり世話物が良い。『曾根崎心中』は手持ちの床本では少し端折られていたが、本書に掲載の元の文ではより悲哀に満ちた情景が描かれていて、大変興味深かった。『けいせい反魂香』は浄瑠璃らしいストーリーで、是非文楽で観てみたい。個人的には近松半二の方が好きなので、有名作品も多いし、続編を出して欲しいところ。2017/05/11