内容説明
激情型の小野篁、女好きな在原業平、何ごとにも秀でた大納言公任、単純な陽成院…。王朝時代を彩る百人一首の作者たちは百人百様だ。王朝和歌の碩学が、『古今集』『後撰集』『大鏡』などに描かれる人間模様や史実、説話を読み解きながら、作者の新たな魅力を紹介。歌だけではうかがい知れない、百人一首の雅な世界へと誘う。作者の心に触れ、百人一首をより深く味わうエッセイ。
目次
序章 王朝文化の系譜―百人一首とはいかなるものか
1章 万葉歌人の変貌―人間化と神化と
2章 敗北の帝王―陽成院・三条院・崇徳院
3章 賜姓王氏の運命―良岑父子と在原兄弟
4章 古代氏族の没落―小野氏と紀氏と
5章 藤氏栄華のかげに―夭折の貴公子たち
6章 訴嘆の歌と機智の歌―文人と女房の明暗
7章 遁世者の数奇―能因より西行へ
終章 定家と後鳥羽院―百人一首の成立
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
23
従前のありがちな百人一首本と違う。本格的。安直な読みやすいカラフルな本じゃ、和歌に絡む奥深い世界は素通りだなって感じている。その分、ささっとは読み通せなかった。 『応仁の乱』ではないが、自分のような素養のないものには、多くは高名な歌人・公家らなのだろうが、名前が読めない場合が多い(ルビは随所で…党外の人物が扱われた段階で振ってあるのだが、頁を少々捲ると、もう忘れてしまう)。2017/04/09
かふ
19
「百人一首」の入門書だと思ったら結構内容が濃かった。一人一人の和歌に加えてその背景となる物語に言及して、系統も錯綜としているからじっくり読み込む必要がある。その中で芭蕉や民俗学の柳田や折口まで広げていくのだからかなり豊富な知識を求められる。それでも百人一首の成立過程を描いたエピソードが面白い。すでに武士の時代が台頭してきて、権力闘争に敗れていく皇族や大貴族の末裔たちが、かつての「雅」な宮廷生活(青春の恋愛時代)を夢見て、それを自然の花鳥風月に重ねた藤原定家が後鳥羽上皇や「失われた時を求めて」という感じだ。2020/12/13
Mijas
16
正月といえば、百人一首で遊んだことを思い出す。歌の作者名も何となく覚えたものだった。本書はそうした作者を天皇、文人、古代氏族、女房、坊主などのカテゴリーに分けているので、坊主めくり以外にも天皇めくり、文人めくりなどの参考にできそうだ。内容は、文学史における400年間の王朝文化の検証である。他の史料も多々引用されていたので、丹念に読む必要があった。政治的敗者が自分の生き方の証として歌を詠んだり、和歌というものが当時の社会で必然的に生まれたものだということがわかる。日本の文化レベルの高さを改めて感じた。2015/01/04
Noelle
6
今まで漫然と順に並んだ歌をうろ覚えに楽しんでいたが、本書では天皇、賜姓王氏、古代氏族、藤原氏、女房、法師という風にカテゴライズしてそれぞれの時代の政治的、文化的背景を、他の日記、歌集なども取り上げながらの解説。こんな百人一首の解説を初めて読んだが、とてもわかりやすく、その歴史的、文化的背景がすっと入ってくる。天智天皇に始まり順徳院に終わるこの王朝文化の壮大な流れが解きほぐされていくのがなんとも興味深かった。2016/03/13
shou
4
一首毎ではなく、敗北の帝王や没落古代氏族の末裔たちといった分類で、作者たちの置かれていた境遇を解説し、定家が選出した理由を考察。時代の流れの中での和歌の重みの変遷が見えてきてたいへん興味深い。2014/06/05