内容説明
1本の蝋燭に浮かびあがる仄暗い部屋で息をこらすひとり男。やがて訪れる天使たちが、炎のまわりを飛びまわり…。読み手に鮮烈な印象を残す表題作の他、ニューゴシックの旗手パトリック・マグラア「ブロードムアの少年時代」、北アイルランドの幻想的幽霊譚シェイマス・ディーン「ケイティの話1950年10月」、訳者のオールタイムベスト作家スチュアート・ダイベック「猫女」など、記憶に刻みつけられる、必読の傑作短編集。
著者等紹介
柴田元幸[シバタモトユキ]
1954年生まれ。東京大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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三柴ゆよし
14
特に印象に残った作品を挙げるなら、傘の下でしか愛し合えない男女の恋愛をしっとりとした筆致で描いた「僕の恋、僕の傘」(ジョン・マクガハン)、著者自身の異常な(?)少年時代を回想する「ブロードムアの少年時代」(パトリック・マグラア)、幻想的な小品二題「燃える天使 / 謎めいた目」(モアシル・スクリアル)あたりだが、結局のところ、スチュアート・ダイベックの「猫女」が全部持って行った気がする。狂気の人かと思われた猫女の存在が、実はその町の平衡を絶妙に保っていたという、読みようによってはかなり怖い掌篇。2011/11/16
nina
11
英語圏の作家の短編(ひとつだけブラジルの作家も)アンソロジー。特にテーマが決まってるわけではないようだけど、そこはあの柴田先生の御眼鏡に適った小説たちなので、どことなく不思議な、この世とはどこか隔絶された世界の住人が主人公として登場するような風変わりなものがほとんど。なかでもアイルランド奥地の怪奇譚を描いたシェイマス・ディーンの『ケイティの話』や、第2次大戦中に夫の帰りを待つ新妻を描いたヘルプリンの『太平洋の岸辺で』、謎の「影」をこぞって人々が買い求めるケアリーの『影製造産業に関する報告』が印象に残った。2013/09/11
樽
8
何か他のも読んでみようかと思った新たな作家は今回見当たらず、、、。『愛の跡』の、「雲が馬鹿みたいだった」っていうラストの一文は気に入りました。2025/05/18
かみしの
8
柴田元幸編訳の短編集。はじめの「僕の恋、僕の傘」で、センチメンタル恋愛系(こういうのはこういうので好き)かと思ったら、どんどん不穏になってゆく。マッキャン「愛の跡」、スラムな擦れた恋愛。ディーン「ケイティの話」、幽霊話。怖かった。ダイベック「猫女」、奇妙な小話。スクリアル「燃える天使」、好きなタイプの怪奇小説。ホルスト「サンタクロース殺人事件」、とんち話と落ちたかどうかわからない最後の一文。知らない作家も多くて、さすが柴田元幸といった一冊だった。2016/09/12
ネロリ
8
どれも楽しめたのだけど、個人的に一番好きなのは「太平洋の岸辺で」。女性たちの現実的な部分がだんだん溶けて、抽象化されてくる感じがした。オレンジの木立のくだりや、工場での祈りを込めた歌声のあたりが特に好き。溶接の描写が続くところでは、退屈どころか魅力すら感じてしまった。他に、ぐっと掴まれた「ブロードムアの少年時代」、狂っているようで狂っていなかった「猫女」、無茶苦茶な「メリーゴーラウンド」、訳注で遊ぶ「アキレスの回想録」、短編の妙だと思った「燃える天使/謎めいた目」など、それぞれの魅力があった。2011/11/29