内容説明
急死した兄の背中を追うようにオリンピック会場の建設現場へと身を投じた東大生・島崎は、労働者の過酷な現実を知る。そこには、日本が高度経済成長に突き進む陰でなお貧困のうちに取り残された者たちの叫びがあった。島崎は知略のすべてを傾けて犯行計画を練り、周到な準備を行う。そしてオリンピック開会式当日、厳重な警備態勢が敷かれた国立競技場で運命の時を迎える!吉川英治文学賞を受賞した、著者の代表作。
著者等紹介
奥田英朗[オクダヒデオ]
1959年岐阜県生まれ。97年『ウランバーナの森』で作家デビュー。2002年『邪魔』で大藪春彦賞、04年『空中ブランコ』で直木賞、07年『家日和』で柴田錬三郎賞、09年『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
502
諦念を身に纏った心優しきテロリスト島崎国男の物語。読者の多くは昌夫たち刑事に肩入れしつつも、やはり心情的には国男に感情移入しながら読むだろう。これまで追う側と追われる側両者の時間軸には隔たりがあったが、それが次第に縮まり、やがて10月10日の当日となり、そしてついには交点を結ぶ。このあたりの表現はサスペンスに溢れ実に見事。迫真の描写だ。あたかもそれがテレビ映像が追うドキュメンタリーであるかの如くに。奥田英郎畢生の大作(分量の意味ではなく)。エンターテインメント小説としては最高の部類に位置するだろう。推薦。2023/01/06
しんたろー
201
下巻は犯人側と警察側を微妙にズラしながら交互に描く構成の妙が更に活かされて展開がスピードアップ…ページをめくる手も止まらない面白さ。特に犯人側・島崎と村田の会話が秋田弁を交えているからか、素朴でユーモラスでもありながら、社会や人生に対して含蓄があって考えさせられる。愚直で孤独な島崎に共感できたのが一気に読めた理由だが、それだけに最後に彼が登場しないのが非常に残念!『罪の轍』もそうだったが、もう一人の主役・落合刑事の心情が少ないのも惜しい。それでも自分の生まれた頃を振り返りつつ、極上のサスペンスを楽しめた♬2019/11/22
Atsushi
179
貧しい東北出身の島崎国男にとって東京は富と繁栄を独占する諸悪の根源でしかなかった。格差社会に憤りテロリストと化した島崎は国家に一矢報いるためオリンピック開会式の爆破を企てる。それを阻止しようとする警察との攻防劇は読んでいて息が抜けなかった。さらに格差が拡大した今の日本を島崎はどう思うだろうか。2018/08/04
yoshida
126
戦後でも拡大する貧富の差。地方の寒村と東京の格差。島崎はオリンピック開会式にテロを起こし、日本の欺瞞を問おうとする。警察と公安の追跡により、島崎と相棒の村田は逃走を続ける。読ませる作品と思う。島崎等が逃走で頼った、東大や学生の左翼グループ、在日朝鮮人のネットワーク。当時の様々な世相を反映している。また、身代金受渡しの様々な状況も練られている。根底にあるのは格差。輝かしい五輪の影で亡くなる作業員達。地方と東京のギャップ。格差は現代も形を変えて存在する。超富裕層とその他と言おうか。現代にも問いかける作品です。2023/01/10
H!deking
116
これは相当面白かったです。時系列ものっていろいろあるけどこれは秀逸ですね。こういうやり方もあるのか。高度成長期のヒエラルキーの底辺の感じとか、実際こんなんだったんだろうな。人夫たちのセリフも妙に説得力があって興味深かい内容でした。2020オリンピックを前に、俺も建設業界の一員としていろいろ考えさせられる。これはぜひ皆さんに読んでいただきたい!でも、ヒロポンはだめよ、絶対!2019/07/13