内容説明
高層ビルの三十階にある“メンタル・クリニック3001”には、職場や家庭でストレスを抱えたビジネスマンたちがやってくる。リストラうつ病、帰宅拒否症、いじめうつ病…。向き合うのは、自らも悩みを抱える医師・神山と、解決の糸口に示唆を与える院長・長瀬。心が全く壊れていない奴なんていない、精神科医にできるのは、再生への道筋を患者とその家族に示すことだけ…。企業社会に生きる人々の癒しを描く連作短編集。
著者等紹介
江波戸哲夫[エバトテツオ]
1946年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。三井銀行(当時)を一年で退職、出版社勤務を経て、83年作家として独立。政治、経済周辺を題材に、フィクション、ノンフィクションの両分野で幅広く活躍する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おしゃべりメガネ
154
とある街中であらゆるメンタルヘルス患者を診察するクリニックが舞台の話です。7編からなる連作集で、どの作品も味わい深く読めました。なかでもやはりサラリーマンならではの「リストラうつ病」「帰宅拒否症」「いじめうつ病」がかなりインパクトが大きく、決して他人事ではない話でココロに強く、シリアスに響きました。どの話も基本、自分に無理をしているコトを気づかずに徐々にメンタルを患い、崩壊していきます。そんな中にあってやはり家族の存在はとても重要で、メンタル疾患は決して一人で抱え込んではいけない病気だと改めて思いました。2018/10/28
GAKU
60
オフィス街の高層ビルにある「メンタル・クリニック3001」に勤務する精神科医神山。 彼のもとに訪れてくる、心を病んだサラリーマン達との関わりを描いた連作短編集。「リストラうつ病」、「女装癖」、「サプリメント依存症」、「職場いじめうつ病」等々の心の病を解決していく。神山自身も軽い強迫神経症という設定も興味深く、初めて読んだ作家さんでしたが楽しく読めました。「心が全く壊れていない奴なんかいない」、確かにそうかもしれない。 2018/11/14
空
14
メンタル・クリニックの医師でありながら自身も脅迫神経症で悩む神山とその治療を求めてやってくる患者たちの物語。 遁走 女装癖 リストラ鬱病 帰宅拒否症 サプリメント依存症 いじめうつ病 心の巡礼 最後の心の巡礼が特に心に残った。 適当に見える院長が患者とその家族に本気でぶつかり、 アル中の患者と一緒に落ちてその悩みの底を一緒にみようという姿勢に心打たれた。 汚物まみれで汚い描写のはずなのに、そこに明るい光を感じた。 地味な小説だけど、読めて良かったと思えた。2018/12/02
ピコ
4
'ガス?’’戸締り?’二度三度確認することは私にもよくある。そういう意味では軽い強迫神経症なのだろう。またそういう神山に親近感を持った。「心が全く壊れていない奴なんかいない」私もそう思う。それを隠し、または気が付かないで社会生活を送っている人はかなり多いのでは?ここに収められた7編の話は決して特殊なケースではないと思う。続編があれば読んでみたい。2012/08/03
kyoh
4
一人の精神科医のもとに、日常の中で何かにつっかえてしまったサラリーマン達が訪れ、根本を見つけていく過程を追った短篇集。 ‘会社’という限定された組織の中、理不尽や納得できないことがあっても演じなければならない自分の仮面に、自分さえ騙し続けている日常。でもある日、やっぱりどこかで心理的に破綻が来そうなギリギリの心。 こんな疲弊を感じてる時に読むと少しだけ気が楽になりそう。 主人公の脅迫神経症持ちの精神科医も、医者然とした物言いではなく、患者に逃げ道を与えながら診断を与える姿勢が好感が持てました。2010/07/24