内容説明
「結婚してやる。ちゃんとしてやんなきゃな」と恋人に得意げに言われ、ハナは「なんかつまんねえ」と反発する。共同経営する下北沢の古着屋では、ポリシーを曲げて売り上げを増やそうとする親友と対立し、バイト同然の立場に。結婚、金儲けといった「ありきたりの幸せ」は信じにくいが、自分だけの何かも見つからず、もう37歳。ハナは、そんな自分に苛立ち、戸惑うが…。ひたむきに生きる女性の心情を鮮やかに描く傑作長編。
著者等紹介
角田光代[カクタミツヨ]
1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。90年「幸福な遊戯」で「海燕」新人文学賞を受賞しデビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、98年『ぼくはきみのおにいさん』で坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2000年路傍の石文学賞、03年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞。06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
163
私たちは誰しも、こうあるべきという人生の”理想の形”を持っていると思います。多くの人にとって、それは『薄闇』の中に実態を探し求めるものです。しかし、だからといって焦ることはありません。自分の人生は自分のもの。『その人はその人になってくしかない』からです。モヤモヤとした感情渦巻く物語の終わりに、うっすらと光を見るその結末は、主人公・ハナの人生の”理想の形”の輪郭を少しだけ垣間見せてくれるものでした。そんな人生の気づきを見るこの物語。角田さんらしく丁寧に紡がれる表現の中に人の心の機微を見る、そんな作品でした。2021/02/15
ゆいまある
86
ドラマチックな話ではない。37歳の女性。尖った学生だったので友達と古着店を起業。それなりにペースに乗っていた。だが恋愛がうまくいかなくり、仕事のパートナーだった親友とも価値観がずれてくる。やりたくないことやらないと先に進めないと周囲は言うが、やりたくないことはしたくない。かといって何がやりたいか見えてこない。宙ぶらりんなまま迷ううち、死んだ母のウザイほどの愛情の尊さに気が付いて母と邂逅する辺りがクライマックスかもしれない。カタルシスはないが。心理描写にエッジが効いていて読んでいて心地いい。アンリミ 2024/06/22
団塊シニア
60
ひたむきに生きる女性の心情が巧みに描かれてる、「対岸の彼女」ほどの衝撃はないが一読の価値はある。2013/11/12
けぴ
58
古着屋を有人と共同経営するハナ37歳。腐れ縁的な男友達タケダに「結婚してやる」と言われて、結婚しても良いがなんだかカチンとくる。タケダを振って古着屋を頑張るなか、母親が亡くなる。実家から見つかる母の手作り子供服を布絵本に再生することを始め、新たな事業とするが・・。角田さんのエッセイから考えると母親のモデルは角田さんの母親か? 今回のような、そこらへんにいそうなリアル女子を描くのは流石に上手い。しかし、『八日目の蝉』、『紙の月』のような読み応えある作品がまた読みたい!!2021/05/10
ゆきねこ
54
角田さん、本当に女性の心理を語らせたら当代きっての切れ者。友達と起業してそこそこ成功して、自分の人生は自分のものと肩肘張って生きている30代後半女性。恋人が結婚を迫ってくると「結婚してやる」という態度やモデルルームにゲンナリして振っちゃうし、友達の結婚に打ちのめされる。大嫌いだった母親の手作り教に自分のルーツを見出すところ、うますぎる。ただ、描かれた時代が今よりずっとエネルギーがあり、可能性を信じていたかもしれません。一人ぼっちが当たり前、結婚しなくても認められる、そんな時代になってきたような気がします。2020/04/19