出版社内容情報
朝の蜘蛛は殺さず、夜の蜘蛛は殺せ。箒はまたぐな…。地域社会の繋がりが薄れていく現在、昔話のような「語り」の文化が衰退している。失われゆく伝説・俗信の世界を丹念に掘り起こして、民俗学的視点で考察。
内容説明
「夜、口笛を吹くとヘビが来る」「朝のクモは吉、夜のクモは凶」「長居の客には箒を逆さに立てるとよい」―。私たちのまわりには迷信とか俗信と呼ばれる言い伝えが、まるで網の目のように張りめぐらされている。気にとめていないようでも、具体的な生活の場面では、意外に人びとの行動に影響を与えている。本書は、一見、取りとめもなく散在しているかにみえる俗信を素材に、なにげない日常のなかに染み込んでいるものの見方や心性に注目し、その論理的な思考と構造を解き明かす。
目次
第1章 昔話の構造と形態(「たにし長者」の形態論;「猫と南瓜」の構造;「猿聟入」の地域的変化)
第2章 伝説の背景(伝説と年中行事―田村麻呂の悪竜退治をめぐって;伝説と俗信;地すべり伝説の背景)
第3章 俗信の世界(禁忌と連想;蜘蛛の俗信と説話;境界の呪具―箒;生活のなかの俗信―新潟県古志郡山古志村)
著者等紹介
常光徹[ツネミツトオル]
1948年、高知県生まれ。国学院大学卒業後、都内の公立中学校教員を経て、現在、国立歴史民俗博物館助教授、綜合研究大学院大学助教授
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
F
23
口承文芸と俗信にフォーカスした論文を纏めた一冊。地域に伝わる禁忌・俗信と、その周辺にある伝説との相関を探り、構造とそれに至る思考を考察している。物語の構造、成り立ちについて興味がある方にオススメ。/埼玉県比企郡を中心に伝わる坂上田村麻呂関連の伝説の成立についての考察が興味深かった。2012/02/19
うえ
6
箒の民俗「「下座のほうから上座にむかって掃き始めない」(山古志村)、「ニワを掃ぐときは、入口のほうから掃いで来るもんでない」なども、出棺後の作法からきている…出棺のあと掃くのは、まさしく掃き出すことにほかならず、死霊が屋敷内にとどまらぬよう縁を切るための儀式である。秋田県山本郡で「葬式をしてすぐ掃き出さぬと霊がいつまでも家にいる」というのは、箒で掃き出す必要性を端的に物語っている。「出棺直後、メイケ(竹篭)を座敷の上やら外へ掃きき転がす」土地もある。竹篭は、死者の霊の逸脱を押え、魔除けの目的で伏せておく」2019/02/11
ankowakoshian11
2
全国各地に伝わる昔話から構造と形態を考察する内容。ところが初端から『たにし長者』の話で脳が理解を超えた……タニシ→田や水に棲む生物→その神性なのは理解できるのだけど、たにしが嫁取り!?たにしが!?と読みながら軽くパニックになっていた……おかげで次の章の『俗信の世界』が読んでもすっぽ抜けてゆく……。というか、たにしの嫁取り……たにし……(遠い目)2022/11/22
七澤
1
同じ昔話にもこういうパターンが何件あって、ここで分岐したのが何件あってとしっかり統計がとってあり面白いしわかりやすい2023/08/24
Zaid
1
昔話、伝説、俗信といったものについて、単に収集するのでなく、全国的な分布や、伝播するにつれて変化する話型、話の背景にある風俗や発想などを分析している。現代にも迷信・俗信の類いは根強く残っているが、それを単に「非科学的だ」「エビデンスがない」と無視するのでなく、「なぜそういう発想になったのか」を考えてみるのも面白いかもしれない。迷信も俗信も都市伝説も、何もないところから生まれたのではなく、発端となる事件や生活上の必要など、何らかの必然性はあっただろう。もちろん、法や政策の根拠が迷信であっていいわけではない。2019/02/17