内容説明
35年間という短い生涯ではあったが、芥川龍之介が日本近代文学史にのこした業績はかぎりなく大きい。大正時代を代表する芥川の文学は、成熟と破綻のあいだで苦悩した時代の象徴であり、芥川の自死とともに昭和という激動の時代がはじまった。各時期を代表する8編の作品をとりあげ、作品の書かれた背景、作品を読むヒント、コラム、エピソードを豊富に織り込んで読解の助けとした。
目次
大正三年~六年(羅生門;鼻)
大正七年~十年(地獄変;舞踏会)
大正十一年~十三年(薮の中;将軍(抄)
トロッコ)
大正十四年~昭和二年(河童(抄))
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
45
芥川の生涯とその背景をコンパクトにまとめているのが良いですね。コラムも興味深かったです。読んでいると、芥川においかぶさってくる時代が重いように思えました。時代に翻弄された作家と言っても良いかもしれません。2023/03/25
ウォシュレット
3
羅生門、鼻、河童などの代表作は収録されていますが、特に印象に残ったのは地獄変です。中学生の時に初めて読み、芸術の為なら、いかなる犠牲やモラルを厭わない、良秀の生きざまに鳥肌が立ったのを覚えています。改めて再読して一つ気になったのは、良秀が縊死した原因です。良秀は娘の死に囚われて死を選んだのか、それとも自分の死も芸術の犠牲の一つなのか。明確な答えはまだつかめません。ただ他の文献の解説にあった、娘との近親相姦関係説も中々魅力的だと思いました。2013/03/04
dj_amatsume
2
芥川龍之介の生涯順に、代表的な作品とコラムがまとめられている。色々な読み方ができるようなテキストにその最大の特徴があるように感じた。羅生門は、その最後のテキストが修正され現代の形になった。修正前では全く異なった趣となっており、1フレーズが作品に与える重みに感服する。河童は、反出生主義などあからさまな風刺対象が多面的に書かれる。 多義性を含む文学は、世界のあらゆるものごとを考えるきっかけを与える。主体性を持ち文学が意図するところを考えることは深い思索へと誘う重要な観点であり、他の評論等にはできない芸当だ。2023/04/28
栗山いなり
2
芥川龍之介って案外時代に翻弄された人だったのかもな。酷評や時代の激動、晩年の望まない絶賛が敏感すぎる芥川龍之介には重すぎたんじゃないかと思う(あんな事決断するくらいには)2018/07/22
Koro
2
芥川は教科書で読んだ作品を知っているだけで、有名すぎる名前には似合わない不遇の生涯を知らなかった。遺伝による発狂の恐怖、家族を養うための多忙な生活と作品への評価に疲弊する精神。「ぼんやりとした不安」もさもありなんといった感がある。古典もそうだが、作品や作家の解説が載っている角川ソフィア文庫は文学を実に身近にしてくれる。2010/01/20