内容説明
お手伝いのキリコさんは私のなくしものを取り戻す名人だった。それも息を荒らげず、恩着せがましくもなくすっと―。伯母は、実に従順で正統的な失踪者になった。前ぶれもなく理由もなくきっぱりと―。リコーダー、万年筆、弟、伯母、そして恋人―失ったものへの愛と祈りが、哀しみを貫き、偶然の幸せを連れてきた。息子と犬のアポロと暮らす私の孤独な日々に。美しく、切なく運命のからくりが響き合う傑作連作小説。
著者等紹介
小川洋子[オガワヨウコ]
1962年、岡山市生まれ。早稲田大学文学部卒。88年、海燕新人文学賞を受賞。90年、『妊娠カレンダー』により芥川賞受賞
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
268
しみじみと小川洋子の作品世界に浸れる短篇集。解説の川上弘美は、これを小川洋子の短篇集ベスト1にあげる。全部で7編の作品を収録するが、そのいずれもが、小川洋子本人を思わせる主人公による1人称語り。もちろん、そのようなスタイルをとった、巧みなフィクションだ。日常の、ほんの僅かな辺縁に潜む非日常を描く小説作法は本当に見事。川上弘美の推す「キリコさんの失敗」と「盗作」が特に秀逸か。小説家、小川洋子の「核」を見るかのようだ。ただ、作品集後半の、指揮者との擦れ違いを描く一連の作品群は、やや迫力を欠くように思う。2012/08/20
mae.dat
262
洋子さん自身の事を書いているのかな? って瞬間が度々あるのですけど、どうも我々の住むこの世界とは一線を画している様に思える場面も度々訪れる様で。何とも落ち着かない感じがしますね。それで思ったよ。きっと、洋子さんはこの世界だけで無く、少なくとももう一つ以上のパラレルワールドにも住んでいて、そこでの経験を描いているのではないかな? と。そこでも小説家をされているのですね。薄目の本ですが、たっぷり7話の連作になっていて、不思議な感覚を楽しめますね。その場に居なかった筈の人が、突然現れるの怖い(꒪ω꒪υ)。2023/01/27
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
207
「小説はしばしば私に森のことを思い起こさせる。」分かる気がする。私の中でタイトルについていたら手に取りたくなるもの。森、きつね、蝶。物語の気配を感じるから。 失踪者たちの王国に思いを馳せて、各章に挟まれるお話に「ホテル・アイリス」や「完璧な病室」の気配を感じられ嬉しくなり、小川洋子さんご本人のお話なのか、物語との境目が分からなくなり良い感じに酔わされた。物語が動く気配は密やかで、傲慢で愚かな神にならないよう、手探りで森を歩く。2019/11/15
酔拳
162
7編からなる短編集です。小川先生は書く小説がどれも小説の表現が少しずつ変わるなと思いました。この小説集もそうで、表現方法が他の作品とは違うな?と感じました。しかし、登場人物の心情表表現は核として、しっかりもってあり、静かな中にも登場人物の心情がきちんと描かれていて、読後感は清々しい気持ちになれます☆2016/08/22
速読おやじ
150
決して読んでいて爽快感を得られる作家さんではないのだが、時々無性に読みたくなる種の小説です。常に何かが欠けている物語が描かれている様子。読者が知りたい真相にはたどり着かないのだが、その真相よりも大切な心の隙間を知ること、その埋め方を学ぶことが大切なのかなと何となく読後に思った。2020/12/16