内容説明
母がいるホスピスで僕は子供の頃高原で遊んだ少女に再会、彼女は虫を一匹一匹つぶすように刺繍をしていた―。喘息患者の私は第三火曜日に見知らぬ男に抱かれ、発作が起きる―。宿主を見つけたら目玉を捨ててしまう寄生虫のように生きようとする女―。死、狂気、奇異が棲みついた美しくも恐ろしい十の「残酷物語」。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
205
『大皿の上にはハム、燻製チーズ、ゆで卵、ロールパン…』と、”モノ”にこだわる小川さんならではの表現など、”小川洋子ワールド”をそこかしこに感じさせるこの作品。そこには、怖いもの見たさの不気味な表現などもあり物語世界を堪能させていただきました。『寄生虫』や『キリンの解剖』など、読者が思わず引いてしまうような表現を敢えて魅惑的に描き出すこの作品。10の短編がそれぞれの世界観を小気味良く作り上げていく様を見るこの作品。一つひとつの作品世界に極めて強い個性を生み出していく小川さんの魅力に改めて感じ入る作品でした。2023/01/11
ヴェネツィア
188
全部で10の小品からなる短編集。現実の中に収まりつつも、そこに幽かな異和を生じさせるものと、幻想の中に入り込んでいくものとが混在するが、どちらかといえば、前者が多いか。「森の奥で燃えるもの」などは後者の代表格だが、耳の中から取り出す「ぜんまい腺」などは奇妙なリアリティを感じさせる。また「図鑑」における「目」の不気味さも捨てがたい。島尾敏雄のシュール系列の作品を思わせる。ただ全体としては、個々の作品が短いために、本来の小川洋子ワールドの濃密さにはやや欠けるようで、幾分か物足りない感は否めないか。2012/10/06
優希
124
美しくて残酷さを感じました。死や狂気、奇異の雰囲気が漂います。日常の中にさり気なく織り込まれる非日常。静かで穏やかな時間から冷たい空気へ誘われるようでした。時間が流れているようでありながら止まったようでもある不思議な感覚。必要最低限の音と世界に包み込まれているような感覚になります。2015/11/26
シナモン
111
不吉で不穏な空気に覆われている。静かな狂気…この感じ、嫌いじゃない。2023/07/30
buchipanda3
109
初期の頃の作品集だが、既に小川さんらしい清廉さとグロテスクさを併せ持ったような奇異な魅惑がどの話からも感じられた。何かを失って通常から外れる姿への不安、心のざわつき、そして切なさへ寄り添うような読み心地。死を前にする母親と共にする場にやってきたのは、かつて喘息を患っていた思い出の少女。か細い指はその先にある閉じた自由な空間へ導く。輝きを掴みきれなかった女性の独唱は沈黙に閉ざされず新たな日々を紡ぐ。失った命を思い煩い、走ることで気を紛らわそうとした女性。偶然の出会いが安らかに眠っているはずの空間を描かせた。2024/07/03